フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
07-2(3)・東洋英和女学院大学教授 与那覇恵子先生講演会 「現代を生きる女性たち」
2003年7月31日発行『読書運動通信7号』掲載記事2件中2件目(3)
*2件目の記事は(1)〜(8)まであります。
●男たちのまなざし●
 一方、和子たちがやっていることに対して男性の側、彼女たちこういう
恋人商法をしている女性たちを、匿名座談会と言う形で週刊誌に載せた
男性が居る訳なのですけれども、その週刊誌も裏の週刊誌……
表に出ているのではなくて、そういった恋人商法で知り合いたいと考えている
雑誌に掲載されたものですけれども、ここでは男性の視点からですね、
彼はフリーのライターです。ですから世間の酸いも甘いも知っている、
そういうようなフリーライター。純粋な心っていうのはもうとっくの昔に
失ってしまったっていう形で書かれています。

−−坊ずはバカだった。世間知らずで無防備だった、下心を持った
報いを受けた。そして彼女は、坊ずと同時にほかにも何人も坊ずのような
男たちを操っていた。バカをみたのは坊ず一人じゃない。そのとおりだ。
だが、どんなにバカで無知でお人好しでも、夢を見る権利はある。
そして夢は金で買うものじゃない。まして売りつけられるものでもない。
わかるか?坊ずにしなだれかかってきた女は、その最低限のルールさえ
無視していたんだ。彼女の頭にあったのは、坊ずがバカでお人好しで、
寂しいということだけだった。ある程度までは彼女を満足させられるだけの
金は持っているということだけだった−−

 ていうことで、ここでお金の交換で、愛情を得ようとする、あるいは
こういうような女性を恋人に持ちたいという夢。その夢が買える。
それが買えると思う錯覚を起こす男よりも、それを金で売ろうとする
女のほうが悪いというのが男性の視点という風になっています。
その座談会のことが出てきます。

−−あの座談会で、集まった四人の女どもがしゃべったことには、俺は一言半句も
手を加えちゃいない。どんな汚い言葉も、嫌らしい言い回しも、何一つ付け加える
必要なんかなかった。あれはみんな彼女たちの口から出た言葉だ。全部がそうだ。
隅から隅まで、一かけらの誇張も修正もない。女の子たち。きれいな顔をして
いい服を着て、虫一匹殺せない。けっして貧しくない家庭で、真面目な親たちに
育てられ、ほどほどにいい学校でちゃんと教育を受け、友達もボーイフレンドも
いる。毎年十月が来れば真っ先に胸に赤い羽根をつけて歩く。そんな彼女たちが
得意満面でしゃべったことだったんだ。いいか?得意満面でだぞ。彼女たちは
面白がってた。悦にいってた。仕事から帰っても迎える人がいない、日曜日に
行くところもない、深夜スーパーで一人分のできあいの飯を買って帰るのが寂しい
―――そんな男たちから金をまきあげるのが愉しいと言ってな。彼が彼女を喜ばせ
ようと、頭をしぼって、身銭を切って買ってきた野暮ったいスカーフを、駅の
ゴミ箱に放りこむのがたまらないと笑ってな−−

 という風に書かれています。

●ステップアップのために●
 彼女たち自身も、本当はその得た金で自分たちのもうひとつの夢を買おうと
している訳なんですけれども、80年代後半、あるいは90年代前半にかけて、
売り手市場ということで言っても良いかもしれません。そういった中で、
ここにも出ていますけれども、「寂しい、どこにも行くところがない、
恋人が居ない」そういう男たちを手玉にとってお金を稼ぐ。そういう
女性たちが許せない。彼女たちの場合は4人ともそれぞれ外見は一応
美しいという形になっています。ですから一定の男性に好意は持たれる
んですけれども、それ以上のステップアップを求めています。自分たちが
ステップアップする為には、生贄となる男性たちが居ても構わないという考え方。
そういったものもこの時代に蔓延したのかもしれません。

●すべてがお金で買える●
 夢も、愛情も、恋もすべてお金で買える。その一時のある期間内の
幸せだけを交換する。それがこの消費社会という風に言って良いかもしれません。
それに対してそれ以上のものを求めた男たちが馬鹿なんだというのがここに
出てくる女性たちの発想。ただ先ほども言いましたようにその女性たちも、
少しそういったところに自分の後ろめたさを持っている。ということで
結局この仕事は辞める形になっていくんですけれども、金で自分の夢が買える。
それも些細な、私が思いますにはファッションとか、美容整形をする、
それからちょっと高いブランド物を買う。そのくらいのものの夢のような
気がするんですね。大きな、家を買うとか、そういうような話になって
きますとどうしても男性が登場してきまして、女性は身近にもしかしたら
自分の手が届くかもしれない、それがテレビ、ファッション雑誌などを見て、
その状況になれば少しは自分の夢……もうひとつ上の段階の男性との出会いとか、
貯めたお金でキャリアを積む為の新しい知識を身につけるとか、
そういうようなことを思っているわけです。

●欲望のために他者を●
 それは些細な欲望だと言っても良いかもしれませんけれども、その欲望を
達成するために他の人間を足蹴にするっていうそういうような女性たちが
今から出てきます。ここに出てくる四人の女性たちも、OLであるっていう
ことから少し自分を変化させたいという思いを持っている訳です。
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