フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
07-2(5)・東洋英和女学院大学教授 与那覇恵子先生講演会 「現代を生きる女性たち」
2003年7月31日発行『読書運動通信7号』掲載記事2件中2件目(5)
*2件目の記事は(1)〜(8)まであります。
●カードの幻想● 
 それで、彼らの中では、そういう外見や物で自分自身が変えられる
かもしれないということ、あるいは自分のちょっとした現実、
もううんざりするような日常の中からちょっと気分を転換する。
その時に買物をする、新しい何か洋服を買うとか。そういうことによって
ストレスが解消されるということがあるだろうと思います。
カードはそれをいつの間にか、直接そこで「現金。あ、ないわ」というふうに
払わないでカードで後払いをする訳ですから、今お金がないということに
なかなか気付かない訳ですよね。それがどんどんどんどんエスカレートして
いくっていうことで、ここではそういった女性たちの意識というものを
宮城富美恵っていう女性の言葉で語っています。その関根彰子っていう女性が
カード破産して後で殺されることになるんですけれども、その女性が会社を
辞めてスナックのような水商売のところで働くことになった。その時に一緒に
居た女性が、宮城富美恵という人です。こういう風に言ってます。

−−彰子ちゃんとも話したことがあるんだけど、要するにあの娘、
故郷でないところで自由になって、全然違う人生を歩きたかったんですよ。
だけど、現実にはそんなことありっこない。
人生なんて、そう簡単に変わるもんじゃないから−−

 というような、この人は凄く年配なので、簡単に新しい人生が
開ける訳がないということを言っている訳ですけれども、だけれども、
その人たちの気持ちも分かる。だけれども、さらに批判。

−−お金もない。学歴もない。とりたてて能力もない。顔だって、
それだけで食べていけるほどきれいじゃない。頭もいいわけじゃない。
三流以下の会社でしこしこ事務してる。そういう人間が、心の中に、
テレビや小説や雑誌で見たり聞いたりするようなリッチな暮らしを
思い描くわけですよ。昔はね、夢見てるだけで終わってた。
さもなきゃ、なんとしても夢をかなえるぞって頑張った。
それで実際に出世した人もいたでしょうし、悪い道へ入って手が
うしろに回った人もいたでしょうよ。でも、昔は話が簡単だったのよ。
方法はどうあれ、自力で夢をかなえるか、現状で諦めるか。でしょ?−−

 だけれども、現在はカードがあって、結局お金が使える。
いつかはそれを返せるという幻想をカードが生み出していくと。

●借金という軍資金●

−−今はなんでもある。夢を見ようと思ったら簡単なの。
だけど、それには軍資金がいるでしょう。お金持ってる人は、自分のを使う。
で、自分ではお金がなくて、『借金』という形で軍資金を作っちゃった人間が、
彰子みたいになるんですよ。あんた、たとえ自転車操業でお金借りてても、
いっぱい買物して、贅沢して、高級品に囲まれてれば、自分が夢見る
高級な人生を実現できたような気になれて幸せだったんでしょうって−−

 彼女がなんて答えたかと言いますと

−−そうだったって。そのとおりだったって−−

 ですから、高級品に囲まれていると自分自身が凄くレベルが
高くなったように錯覚。あるいはこれこそが私が思っていた夢なんだ。
私はこういう生活をしたくって、今こういうような状況にあるんだって
いう風に、錯覚してしまう。でもそれは、結果的には自分のお金で、
自分自身の力で稼いだものではなくて、クレジットカードという
――それが結局借金になっていく訳なんですけれども、そういった
お金があれば夢が叶えられる、幸せになれるという状況を80年代90年代に
どんどん生み出し、それを女性たち自身もそういう風にいつの間にか
思ってしまった。それが破産の状況になってきますとそれが幻想だった
ということに気が付く訳なんですけれども、そうでない、自転車操業でも
それが続いていればその幸せに浸っていられる、ということですね。
ですから、永遠に続くっていう風には考えてないかもしれませんけれども、
錯覚として永遠に続く幸せだっていうこと。それが、物があること。
物に囲まれている。高級なブランド品、高級な家具に囲まれている。
そういう生活が幸せだっていう風に思っているということ。
そういうような女性たちがたくさん出て来ました。
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