フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2007読書シンポジウム報告-10
問題点とその克服
以上、成果を数え挙げれば切がないほどたくさんのプロジェクトを実行し、
それぞれ手ごたえを得てきたわけですが、読書運動をやってみて良かったと思える点と、
反省すべき問題点をいくつか挙げてみましょう。

【良かった点】
1 大学の中の学部を超え、教員、職員の立場を超えて繋がることができ、
  図書館が一つの結節点となったこと。
  学生と教員、図書館員が立場を超えてお互いに協力しあう関係を築いたこと。
2 図書館が情報発信の基地としてより自覚的になったこと。
3 学生の自発性を養い、学生の能力を引き出すのに貢献したこと。
4 大学の中で読書好きの学生に活躍の場を提供し、その影響力を友人に及ぼすのに役立ったこと。
5 読み聞かせ・朗読など地域に貢献し、地域からその活動が評価されたこと。
6 大学の評価を高め、大学の姿勢を示すものとして報道で大きく取り上げられたこと。

【反省点】
1 当初、教員の側で「読ませよう」という姿勢が強すぎて、学生に反撥されたこと。
2 教員と学生、図書館員の関係が互いの立場を気にかけるあまり、硬直して、
  スムーズな連携が取れず、信頼関係が築けなかったこと。
3 学生の貸し出し件数が思ったほど上昇しなかったこと。
4 予算を消化するために多くの企画をやりすぎて、学生・教員・職員のすべてが疲弊してしまったこと。

  1や2については次第に克服され、互いに学んで、棲み分けと協力体制に築きかたが
格段にうまくなったという印象がありますが、
確実に学生の中に読書運動が根を下ろしている手ごたえがあるにも関わらず、
年々入館者数が減り、貸し出し件数が減ってしまったことは残念でした。
4にあるように、年間50件もの企画をやって、なお貸し出し件数は減り続けたのでした。
  しかし、考えてみますと、この読書運動が始まった2002年から2007年の現在に至る5年間というのは、
始めにも述べましたように「本」をめぐる風景がこれまでの歴史の中で
もっとも大きく変わった5年間でもあります。
書物に頼っていた知の体系がインターネットの世界に置き換えられ、
組みかえられた、大変革期でありました。
従来の学問のうちでも、知識をすばやく得る利便性の点で
コンピュータの優越性を疑う者はいません。
調査や裏づけのための検索機能の充実によって、
私たちの生活は大きくコンピュータに依存するようになり、
「大学」はその「知の独占者」としての地位を低下させ、
従来からの「本」は知の体系の一部を占めるに過ぎなくなった零落の時期でもありました。
そのような大変革期であるからこそ、コンピュータ一辺倒に雪崩をうつ時代の中で、
「本」でなければ得られないものの大切さがより注目されてきた時代であったとも言えましょう。
まさに私たちの読書運動が時代によって要請された理由でもあります。
いわば、逆風に立ち向かうように、わたしたちはなおざりにされてしまった「本」の重さ、
「本」の意味を掬い上げようとこの5年間努力し続けてきたことになります。
こういう時代だからこそ読書の意味を訴えなければならないという
危機感があったということなのでしょう。
むしろこのような知の一大変革期にあって、「本」の変わらぬ値打ちが改めて問い直されているのだと
考えることもできます。
私たちの読書運動はこうした「本」をめぐる荒波の中を船出して、
精一杯漕ぎ続けることで、「本」の持つ魅力と「本」の値打ちを
広めることになったのではないかと思っています。
最後に、困難な歩みを続けるわたしどもにとって一番ありがたかったことをご紹介したいと思います。
成果の見えない活動をなぜわたしたちが続けてこられたか、
それは、受験生によって支えられたところが少なくなかったという点です。
私どもの大学はガラス貼りで全面がガラスなのですが、
そのすべての箇所に読書運動に関わるポスターを無数に貼ってあります。
このポスターを見て、フェリスを受けたいと考える受験生が毎年何人も出て来て、
なぜフェリスを選んだかと聞くと「読書運動をやっている大学だから」と
答えてくるのです。
その中の何人かは大学に入ったら自分も読書運動に入りたいという志望を
述べたりもしてくれます。
その受験生の顔と名前をしっかり覚えておいて、入学後、声をかけて読書運動に入ってもらうという循環が
ごくごく自然なかたちで成立することになりました。
偏差値輪切りの時代、それぞれの大学は個性を打ち出して受験生獲得につなげようと必死ですが、
私どもの大学は読書運動をやっている大学として認識され、それゆえ選別されていたのです。
読書が好きだということは、現代の中学や高校では必ずしも生き易いことではありません。
根が暗いなどと言われて冷やかされるのがおちの読書という趣味を、
この大学でなら受け入れてもらえるという思いがフェリスを選ばせているとすれば、
これほどうれしいことはありません。
私たちの大学は読書に力を入れ、読書の好きな学生に入ってもらう大学として、
大学のアイデンティティを打ち出し、
その結果として予期しなかった受験生の獲得に繋がったことを私どもは誇りにしています。
さらに、困難に立ち向かいながら、読書へのきっかけ作り、
読書への種まきをしていきたいと思っていますが、何かをやらなければならないという使命感を、
エネルギーだけで突っ走ってきた時期はもう終わったのかもしれません。
これからは持続可能な態勢づくりをして、ゆっくりじっくり続けていくことが大切だと、
今は思っています。
その意味では、これからはこのシンポジウムを一つの機会に
同じような読書運動に乗り出そうとしている大学と連携を取り、
有効な手立てを模索していきたいと思っております。
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