フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2007読書シンポジウム報告-12
松田1
松田と申します。
よろしくお願いします。
土曜日の朝は、かれこれ12年間も『王様のブランチ』という番組で本の紹介をしています。
この番組は、この12月22日で放送開始600回になるのですが、
収録が終ると、家に帰って昼食を食べて横になりながら本を読んで昼寝をして、という感じです。
ちょうど今は、普段ですとそのようにくつろいでいる時間帯ですので、
頭がちゃんと働くかどうかわかりませんが、30分くらいお聞きいただきたいと思います。
  先程、三田村先生が出版界の話をされました。確かに、たくさんの本を出し、
たくさんの本を絶版にするこの業界は、非常に過酷だとも思われていますが、
僕がこの業界に入った、かれこれ40年くらい前からずっと、そういう状況は変わってないような気もします。
ある時、他業種(自動車か電機業界だったと思いますが)から出版界に入って来た人がいまして、
こんなに新商品をたくさん作る業種はまず皆無だ、(本は新刊の1点1点が新商品なわけですから)
信じられないと言うんです。
たとえば、筑摩書房という会社は90人程度の会社ですけれども、
年間でだいたい360点近くの本を出しています。
ということは1年間に360点の新商品を世に送り出しているということになりますね。
講談社はだいたいその10倍くらいといわれていますから、4000点近く作っている勘定になります。
出版社が本を出して取次店にそれを渡すと、それなりの信用があれば、
何かしらのお金が入ってくる。要するに委託制ですね。
売れなければ返品されることもあります。
だから月末に締めて、取次に出したものと取次から返品されたものの差し引きがプラスになっていれば、
お金を払ってもらえるというシステムです。
それで、売れない、返品が多いとなると、本をたくさん出して帳尻を合わせるのが
手っ取り早いやり方なんですね。
筑摩書房というのは30年近く前に一度倒産していますが、
その時はそういうやり方をやっていって、それで経営が悪化しまして、
筑摩書房の創業者の一人の臼井吉見という人が「自転車操業」という言葉を作ったのだという、
もっともらしい噂も流れました。
その噂が本当か嘘か、僕にもわかりません。
ですが、筑摩書房という出版社は、会社ができて60〜70年近くなりますが、
半分近く、自転車操業を続けてきました。
そして、出版界全体が自転車操業をしているとも言えると思います。
経営的にはそういう面があるんですが、そんなに儲からないのに色々な本をどんどん出して、
それでもやっていけるのは、たぶん全体の1割か2割の売れる本が、
出版界全体を支えているからだと思うのです。
が、それならば売れる本だけを作ればいいかといえば、必ずしもそうではない。
ベストセラーというものは、突然できるわけではないんですね。
あるジャンルに著者が育ってきて、そこに読者層が形成されて、
初めて売上げの伸びにつながるわけです。
しかも、たまたま一つがヒットしたからといって、それが次につながるということは、まれです。
ですので、儲からない、赤字を出すだけというような本であっても、
そういうものも含めて全体として出版というものは捉えていかなければならないという気がします。
他業界だったら、売れれば売れるほど安く定価をつけていきますし、逆に売れないとなると、
これまたダンピングをして叩き売りをする。
本は再販制、定価販売ということに守られているので、1回つけた定価で売れます。
だから、仮に発売時には売れなくても、それをどう売るかということだと思うんですね。
他の似たような業種のレコード業界(今はCDですけれども)などですと、
まず、全国でレコード店の数が書店の数より圧倒的に少ないし、
売ってる商品数が書店に比べ、非常に少ないですよね。
ですから本のように長く売り続ける、それから少部数でもいいから出すというようなことが、
どんどんできなくなっているというふうに聞いています。
要は、再販制というものがなんのためにあるのかといえば、
出版というのはビジネス以前に出版文化なわけで、出版文化を守る(本当に守っているのかと言われれば、
出版される本の質が問われるわけですけれども)ためにあるということです。
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