フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2007読書シンポジウム報告-16
松田5
出版界はもう飽和状態で、新しい本、新しいジャンルなどないようなことが
20〜30年前から言われていますが、これまでお話ししてきたように、
いくらでも新しい切り口でおもしろい本を作り出すことは可能なんです。
最近の傾向を文芸書の取次ランキングから見ると、ケータイ小説が、
何冊も上位を占めていることがわかります。
ケータイ、パソコン、特に携帯メールが、若い世代の間で
非常に便利なツールとして使われています。
こういう時代になって、人々は以前よりずっと文を書き、また読んでいます。
たとえそれがどんなに単純な文章であったとしても、文字によるやり取りが、
これほど行われた時代は、これまでなかった。
ですので、そこからなにがしかの表現が生まれてくるのは自然なことだと思います。
ケータイ小説は、ある意味、フォークロアみたいな感じですね。
一人の作者だけではなく、それを読んだ人たちと共同制作をしていくようなところがありますから。
ケータイ小説の発信元の、「魔法のiらんど」というところは基本的に無料で、書いた小説がUPされます。
すると、読んだ人がいろんな意見を言う、もちろん辛辣な意見もあって、
それで書けなくなる人もたくさんいる。
が、自分の思いや考えを表現して読者に届けることで、読者と共同して作品を作り上げていく、
読者も参加しているという感覚を持てるという、これまでの小説の書き方とはずいぶん違う方法で
多くのヒット作を生み出しています。
作者と読者が直接コミュニケーションを取るのが難しい出版界の現状から見れば、
これはかなり珍しいことです。
表現や物語が稚拙だとかいう批判はあるかもしれませんが、今までと違う文学、小説が
生まれてこないとも限らないと思います。
  ところで、ケータイ小説は、ケータイで書いて、ケータイで読んで、しかも無料です。
が、それを本にして欲しいと言うメッセージが、とても多かったそうです。
そこで、あるケータイ小説をハードカバーの本にして上下巻で出したら、何十万部と売れた。
これは、僕のような古い活字人間の眼からすると驚くべきことです。
主な購買層は一体どんな人たちかというと、これまでまったく小説を読んでこなかった、
本を買ったことがなかったというような人たちなんですね。
これは、本というものをリスペクトする気持がこういう人たちのDNAの中にもあるのかなと思いますね。
書店員さんの方も、「今まで書店に来たことがなかった人が来てくれるようになってありがたい。
できればケータイ小説がきっかけになって、その隣に置いてある本も手にとってくれればいい」と言っています。
そう簡単にいくかどうかわかりませんが、僕はそこに何らかの可能性があるんじゃないかという気がしますね。
以前、文学には、文壇というヒエラルキーがありました。
そして、文学とは認められないジャンル、戦前の少女小説とか、戦後はジュニア小説の系統の、
コバルト文庫とか色々ありますけれども、最近では純文学でもエンターテイメントでもない娯楽小説、
「ライトノベル」というジャンルがあって、それらの書き手が本格小説を書いて、
文壇デビューしたり、エンターテイメントの作家になっていく人も多いという状況です。
ケータイ小説もそういう進化をとげるかもしれませんね。
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