フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2007読書シンポジウム報告-19
津野1
「コンピュータは読書を変えるか」というテーマでお話する内容を考えていましたが、
ゆうべ、このシンポジウムのチラシを見たら「今、図書館に求められるもの」と言う
キャッチコピーでしたので、そちらの話もきちんとしておかなければならないと、
あわてて練り直しました。
まず、図書館に今、何が求められているかについてお話しし、
「コンピュータは読書を変えるか」というテーマに発展させていきたいと思います。
  今日の来場者の皆さんは、若い人が多いようですので、基礎的なことからお話ししますが、
図書館関係の方にとっては、既知のことだと思います。そのへんはご勘弁ください。
  今日は、地域の図書館、公立図書館のことを中心にお話します。
私は、今、図書館に求められるものは、「保存」だと思っています。
図書館には「保存」と「利用」の2つの側面があります。
一つ目の「保存」は、本をはじめとする資料を収集して、それを恒久的に保管するという役割です。
そしてそれを、利用者が求めるときにはいつでも「利用」してもらえるようにしておく。
それがもう一つの大切な役割ですね。
いつもその二つがバランスよく機能していればいいですが、なかなかそうはいかないのが現状です。
  私たちは、図書館を利用本位のものとして捉えることに慣れています。
図書館が保存のための施設だという意識はあまりなく、
好きな本を借りられる施設と捉えることに慣れてしまっている。
だけど、こういう図書館のしくみになったのは、わりに最近のことなのです。
日本では1960年代の終わりから70年代のはじめ、いまから30年以上前、
先程発表された松田さんがまだ学生で、私の頭にも髪の毛がたっぷりあったころのことです。
  それ以前の図書館は、保存がもっとも大事な役目だとされていました。
戦前戦中まで上野にあった帝国図書館、今は国際児童図書館になっていますが、
あそこは、入るときにお金がかかったのです。
今の金額で100円〜150円くらですかね。
地下の入り口で粗末な藁草履に履きかえて、入場券をもらって2階に行き、
閲覧室の中で決められた席に座ります。
その入場券では5冊まで本を出してもらえました。
もっと読みたい場合は、追加分のチケットを買い、それをカウンターに持っていき、
司書さんに読みたい本を言って出してきてもらって、閲覧室の決められた席で読むんです。
当然、館外貸し出しはしてくれません。
それが公的な図書館の基本的な形でした。
地域図書館はなきに等しく、府立図書館なども、帝国図書館に準じて、基本的には有料でした。
今は違いますね。
もちろん無料で、席が決められているなどということもないですし、
館外貸し出しもごく普通に行われ、予約もできれば購入リクエストをすることだって可能です。
たくさんリクエストが入った本は、副本購入と言って、何冊も購入します。
こういうサービスは、戦後アメリカの占領下におかれたときに、
アメリカの指導の下にできた仕組みです。
ただ、図書法によって定められたにもかかわらず、
このサービスはなかなか定着しませんでした。
それが定着し始めたのは、戦後15年以上経ってからのことです。
最初に動いたのは日野市の中央図書館です。
本は読まれなければ意味がない、ともかく本を読んでもらおうという気持で、
はじめのうちは建物もなく、ひまわり号という小さなバスに本を積んで地域を巡回していた。
本は借りて自分の家で読むという習慣はなかったんです。
巡回バスはだんだん実績をあげ、貸し出し冊数も増えてきました。
そこでようやく図書館を建てようということになった。
そこに日本各地から見学者がつめかけ、このシステムが日本中に広がっていったわけです。
でも、それが、全国に定着したのは80年代になってからでしょうね。
若い人たちは、生まれたときにはすでに現在のようなかたちの図書館になっていたわけですから、
図書館で本が無料で借りられることについて何とも思わないでしょうが、
当時はたいへんな驚きだった。
私が積極的に近所の公立図書館を利用するようになったのも、そのころのことです。
いまでも、私の読書生活の半分くらいは近所の図書館に頼ってます。
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