フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2007読書シンポジウム報告-23
司会(吉澤)
ありがとうございました。
昔の図書館や、市民図書館運動のお話しなど、今の図書館がどれほど多くの人の
望みのもとにできたのかよくわかりました。
今後図書館が生き残るためには、時代の流れにあわせながら常に刷新していかなければならないという、
とても示唆に富んだお話しでした。
 ここで10分間の休憩をとりたいと思います。シンポジウムは15:15から開始いたします。

 ――休憩――

司会(吉澤)
それでは、シンポジウムを開始いたします。
司会進行は、三田村雅子先生です。よろしくお願いいたします。

三田村
はい。では、始めさせていただきたいと思います。
松田先生には、出版とは、ビジネス以前に出版文化を担うということなのですと、
出版人としての気骨を示していただきました。
雑誌文化の衰退と新書の興隆の関係、ちくま文庫、ちくま学芸文庫、ちくまプリマ―新書の路線、
そして新たな教養系入門書の次の受け皿としての選書の流行、ケータイ小説、
ライトノベルの姿など、旬の話題を多く取り入れたお話をいただきました。
最後には若い女性のタレントさんたちの読書のあり方にも触れていただきました。
津野先生には保存のための図書館という考えを塗り替えた町田図書館の試みと、
利用ばかりを優先してしまった結果「保存」をふりすててしまった都立図書館の
現状をご報告いただき、「保存」と「利用」のはざまに揺れる現代の図書館像を
明らかにしていただきました。
どちらのお話しも現在の揺れ動く「本」の環境を報告してくださったわけで、
悩ましいところですね。
松田先生、津野先生、先ほどのご発表ではお時間が短かかったため、話し足りないこと、
補足なさりたいことなどがございましたら、是非伺いたいと思います。
松田先生から、なにか言い残したことはございませんか?

松田
私はいいのですが、デジタルと図書館、デジタルと読書についての話を、
津野さんからしてもらうのがいいんじゃないかと思います。
さっきの講演では、津野さんは演題のところまで話が行ってないようですから。

三田村
そうですね。では津野さんから、お願いします。

津野
そうですねえ。では。
私たちは、本の形をした印刷物を読むことに慣れています。
ヨーロッパで、本が今の形になったのは、せいぜい500年〜550年くらい前ですね。
中国やアジアではもっとずっと古いです。
最初は木簡ですが、それがだんだん進化して、薄く丈夫で軽い紙に墨書したものを、
糸で綴じた線装本ができました。
それが出たのも、ヨーロッパよりはだいぶ古い。 読書というと、私たちの世代は、いわゆる「本」の形をしたものを読むことを指します。
これはもう、そう刷り込まれているので、死ぬまでそうだと思います。
  今は電子出版とか、ケータイ小説とか色々ありますが、ここにいる一番若い人が死ぬころになっても、
やっぱり、本は「本」の形で残っているでしょうね。
ひ孫や玄孫くらいになると変るかもしれないけど、いずれにせよ、本がどうなっていくかは、
あんまり短期的に考えても答えは見えてこないと思います。 
では印刷はどうでしょうか。
「同一テキストを一気にたくさん作れるのが印刷」これが印刷の1つ目の定義ですね。
これは印刷以前のものに対する定義です。
印刷以前は一度に1つのコピーしか作れなかったが、印刷以降は一度にたくさんのコピーが
作れるようになった。
この技術によって、ヨーロッパでは宗教改革やルネサンスが起き、中国でも大きな社会変革が起きました。
もう一つの定義は、「いったんインクで定着したものは消えない」ということです。
こちらは言ってみれば、未来に対する定義ですね。
つまり、デジタルの特徴は、定着しないということでしょう。
テキストを光の点滅によって示す、それはどんどんうつろっていくし、消すこともできます。
流動的なんです。デジタルであり定着的であるというのは、難しいと思いますね。
なぜかといえば、デジタルの特徴は非定着だからです。
デジタルはいろんなことができる。
オンラインで大量のデータを迅速に送ることもできますし、全文検索とか、いろいろなことができます。
そういう特性を維持したいと思えば、デジタルに定着はあり得ません。
そして人間には、定着したものじゃないと、安心して読めないという習慣がしっかり浸みついている。
書くのも、同じです。表現を練り、自分の考えをとことん突き詰めていくことと思えば、
デジタルだけでは無理です。
なんらかの形で定着されたものがあるからこそ、100年、200年前に書いたものでも、
ちっとやそっとでは動かしようのないものとして残るのですから。
そして私たちは、そうした定着されたものをとおして、すでに死んでいるそれらの本の作者と
対話するわけです。
そこのところがグラグラしてしまったら、コミュニケーションが取れません。
でも、印刷には出来なかったこともあるのです。
百科事典は、今、どんどんデジタルに移行しています。
そちらの方が便利だからです。
以前はデジタルの技術がなかったから、やむなく印刷が代行していたんですね。
そういうものはどんどんデジタルにいくと思います。遠い先のことはわかりませんが、
私は、人類が定着と非定着の双方に対する欲求を捨てない限り、この二つは共存していくと思っています。
非常に長いスパンでみないと、この問題には答えられません。
印刷の運命などを語るのはまだ時期尚早ですね。
本当は、松田さんが一番そういうことに詳しいはずですが。

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