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28-3・特集.1 読書感想文コンクール入選者発表-2 |
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2005年8月5日発行読書運動通信28号掲載記事8件中3件目
特集：1・読書感想文コンクール入選者発表
2・西村先生講演会アンケート
募集：朗読会朗読者求む！
3・私たちの＜今＞を読む新規購入図書
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| 第1席「ナヌムの家を訪ねて」 を読んで国際交流学科4年 田中茉央
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はじめに
日本のアジア太平洋戦争における非人道的な侵略行為の歴史的事実と
その後の対応は、長年に亘って他のアジアの国々からの日本批判の
直接原因であり続けてきた。このように戦後60年たった今でもまだ
尾を引く原因というのはそもそも何であろうか。『ナヌムの家を訪ねて』を基に、
戦後の「従軍慰安婦問題」について考えてみたいと思う。
1、日本の側から見る―日本政府の対応とそこから見える問題の複雑さ―
本当に日本は政府が言うように戦後補償をしてきたのだろうか。
それならばなぜ今も各国から戦争問題についてたびたび非難されるのだろうか。
戦後14年にわたった国交正常化会談では被害当事者の立場は無視されたまま
政府が政治的に進め、1965年の「請求権協定と経済協力に関する協定」で
補償問題は決着、最終的に解決すると規定した。
（慰安婦問題は扱われずに終了した）
＊注��
元慰安婦たちが立ち上がり日本政府への抗議を始めた90年代においても、
1991年日本政府は「慰安婦には関与していない」と発表している。
またデモに対し、日本大使館は最初「そのようなことはなかった」言った。
93年初めてあったことを認め、言葉だけでも謝るようになっていった。
そこでまずはアジア女性基金という名目でこの問題を解決しようとする。
その背景には補償問題は65年の協定で解決されたことになっているので
お金を出すことが出来ないという制度的なものがあった。
しかしこの協定の不確実性は前述の通りなので、正当な理由とはいえない。
また日本では「軍人たちはお国を守るために死んだ被害者」としてみなされている。
日本があの戦争は間違っていたと謝罪をしてしまったら軍人は犬死した
ということになり、ましてや慰安所などと関連していたら被害者と思っていた人が
加害者にもなりうる。日本政府はそのような状況から遺族会を意識して謝れない。
もし国会議員が謝罪をしてしまったとすると
その人は選挙によって議員になっているが、遺族会の人の票は非常に大きいから
この人たちを敵に回してしまうと落選する可能性がある。
票稼ぎの意味もあって妄言もでてくるし謝罪もできないという背景もある。
そこで政府は民間から資金を集めて慰安婦に「償い金」を出すという
国民基金を進める。ハルモニたちから猛反対を受け日本の民間団体からの
補償は全て断られてしまった。もちろんハルモニたちは祖国で
貧しい暮らしをしているので生活のことを考えると必要なのだが、
法的な補償ではないお金を受け取ると自分たちがしたことは
お金儲けのためではないのに結果的にそうなってしまうという理由であった。
日本人として恥ずかしいと思うのだが慰安婦否定派というのは少なからずいて
「お金目当てだったのだ。強制的ではなかった」という発言を平気でしている。
また政府は学校教育で新しい世代に教えることを拒み、過去の問題にしようとしている。
2、元従軍慰安婦側から見る ―ハルモニの気持ち―
勇気を出してつらい過去について語り始めた元従軍慰安婦の女性たちを追った
ドキュメンタリー映画『ナヌムの家』を観た。
最近では彼女たちの言葉を集めた本もいくつか出版されている。
抗議活動をするハルモニたちに「お金がほしいんだろ？」
こんな言葉は日本人からも祖国の人々からも向けられた。
どんなに辛かったことだろう。それでも生き抜いてきたハルモニ
（韓国語で敬意を表しておばあちゃんと呼ぶ時に使う言葉）たちが
今望むものは何であろう。日本に対してどのような気持ちでいるだろう。
「日本にも韓国にもいい人がたくさんいます。悪い人はそんなにいませんし
過去には両国が仲良く一緒に暮らした時期もあります。
日本と韓国は一番近い国でありながら戦争のために深い隔たりができてしまった。
色々な問題が解決されて一番近い国として仲のよい関係を築いていけたら」
というハルモニたちは言う。更に私たち日本人に対しては、
現代の日本人が悪いのではなくて祖先がしたことだから悪いのは日本政府だ
とまで言っている。
15歳前後の本当に若い少女たちが幾日にもわたり受けた
あまりにも悲惨な経験は、未だ癒えたわけでは全くない。
人生の中で幸せを感じたことは一度もないというハルモニたちの言葉が
私の心に重く圧し掛かった。
「今になってこのようなことを言い出すのは申し訳ない、
つらい経験どうしてこんな話をするのかと思う、けれども自分たちは
若いときに国のせいで犠牲になった。このようなことが二度と起こっては
いけないということを伝えたくて、自分たちはこのように頑張っている」
とハルモニたちは口々に言う。
ハルモニたちは自分たちの過去を恥じている。どうしてハルモニたちが
恥じる必要があろうか。その原因のひとつに祖国で彼女たちが
受け入れてもらえなかったという歴史がある。
韓国では無事に帰国したにもかかわらず、動物のように見られ、
これは人間ではないと言われ家を出ざるを得なかった。
儒教の国韓国では慰安婦であったことは自分への侮辱ではなく
家族全体への侮辱なのだ。家族も家もなく一人ぼっちである。
またはいつも自分を隠しながら生活しなければならなかった。
それは今でも続いているという。あるハルモニは
「この人間社会のひとつの影の中での生活です」と言った。
韓国内が抱える問題について
日本人＝敵という歴史教育、日本人に負けられるかという強い意地が
戦後韓国の著しい経済発展をイデオロギー的に支えたという人もいる。
すなわち国力を挙げるために反日感情を利用してきたという説だ。
日本を悪く言う理由に「従軍慰安婦問題」を持ち出し、韓国内では
元従軍慰安婦に対して冷ややかな視線を向ける。
本（ナヌムの家を訪ねて）の中で気になった点は、日韓の大学生が話し合う場で
韓国人学生の発言だ。歴史の真実を学びたくて日本からやってきた学生に対し
「朝鮮の歴史や時代区分がわかっていないのに三・一運動はわかるというのは
おかしい、独立記念館を見ても実際の物事はわからず展示されているシーンばかり
見てどんな理解ができるのか、過去の過ちの歴史を認めろ」というように
攻撃的なのが目に付いた。日本人学生の質問にきちんと答えずに、
感情的に訴える学生の発言には客観的な視点がかけているように見えた。
元従軍慰安婦であった当事者と大学生の日本人に対する態度の温度差を
感じずにはいられなかった。
今回様々な資料を調べた結果、侵略した国家である日本が「従軍慰安婦」として
女性たちを直接的に傷つけたのだが、侵略された国家である国々は、
女性たちの被害の個々人の権利についてはあまり気にしてこなかったと
いうことが分かった。石田米子氏の言い方を借りれば「敵の女」
であることによって人間としての尊厳を蹂躪された女性たちは、
「敵によって蹂躪された女」であることによって、その存在自体が
共同体の名誉を傷つけるものとなったのである。
現代の日本
昨今では日本人が戦後60年もの間守り続けてきた平和憲法ですら
目先の目的のために変えようという動きが出ている。
未来志向という名の下に過去を終わったものとして都合のいいように
消してしまおうという卑怯なまねは絶対にしてはいけない。
日本政府には慎重な発言（過去の歴史を隠すことは被害国のみならず
日本国民に対する最大の裏切り行為である）、真摯な態度で
協議を重ねてもらいたい。過去の「国家無答責」を持ち出して
裁判で判決ができないのであれば、法を一刻も早く改善するべきだろう。
手遅れになってしまわないうちに、戦後60年の今年、日本が世界に対して
足を洗って戦後はまっすぐに信頼回復のための努力をしてきたと
誇れるようなものをアピールしなくてはならない。
「従軍慰安婦問題」と一言なのだが様々な問題を内包しており、
一時的な被害だけではではなくそこから長期に亘る差別の問題が
発生しているため、事態はより複雑に絡み合っている。
未だにアジアの国々を軽視する風潮は続いているし、日本人男性は
国内でも国外でも買春を平然と行い、電車などでの痴漢行為も一向に減らない。
女性に対する軽視がこの問題を長引かせていることも無視できない。
戦時中から全く変わっていないのである。
人として
「平和な時はみんな人を思いやる心を持っている、だから今は、
自分が戦時下の人々のように惨いことをするなんていうことは
ありえないと皆思っている。でも一度平和が崩れたとき、
皆簡単に加害者になってしまう。意識して常に正しい判断を
しなければいけない」中学校の社会の先生が教えてくれた言葉だ。
「将兵の中に本当にこんなことをしてごめんね、
という気持ちを持っていた人がいた」という話をしたハルモニがいた。
彼女はその人に頼んだおかげで故郷に戻ることが出来たのだという。
平和が崩れたときにも人間らしさを保った人がいた。
そんな日本人が一人でもいたことを嬉しく思う。
またあるハルモニは「阪神大震災の時、日本は今大変だからと
日本大使館へのデモを1回だけ休んだ」という。
それを読んだとき涙が溢れてきた。私はどんな状況でも相手のことを思いやり、
間違っていることをきちんと見抜ける人になりたい。
＊注��
東京裁判をはじめとする各地の国際法廷では性暴力は戦争犯罪とされた。
部分的には調査、法廷での証言「戦争放棄違反」のひとつとして裁かれた例もある。
しかし証拠調べも審理も非常に不十分なもので、強姦や「慰安所」の性暴力が
それ自体として取り上げられ「人道に対する罪」として裁かれることはなかった。
＊注��
これまでに八件の「慰安婦訴訟」が行われたが、内四件について判決が出た。
一件は部分的に認めたものの他の三件は原告の訴えを全面的に棄却、
日本国家の賠償責任を否定した。
参考文献
『ナヌムの家を訪ねて』同志社大学浅野ゼミ編
『黄土の村の性暴力大娘（ダーニャン）たちの戦争は終わらない』石田米子・内田知行編
創土社2004年『戦犯裁判と性暴力』VAWW-NET Japan編2005五年『日本の戦後補償』
日本弁護士連合会明書店1994年石他、新聞記事、雑誌記事なども参考にした。
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