フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2006・第2回創作コンクール入賞者発表
2005年度に続き、2度目の開催となった創作コンクール。
詩・小説・戯曲の3部門の募集に、詩10件、小説8件の応募がありました。

詩部門

第1席 『Fantasia』 日本文学科3年 高久恵美
第2席 『告の鳥』  日本文学科3年 佐野比呂子
第3席 『古往今来』 日本文学科4年 金井由貴子

小説部門

第1席『月面探検隊』    日本文学科4年 河本真希
第2席『森に住む妖精の物語』日本文学科1年 酒井真梨子
第3席『惜別交換日記譚』  日本文学科3年 齋藤のゝゑ
戯曲部門

応募なし

詩は3席まで、小説は2席まで本にまとめられ、図書館の蔵書となります。

講評と受賞の言葉

詩部門

第1席・講評

平易で素朴な表現、全体的な構成への配慮など、
総合的に力が感じられる。誰の心にもそのまま
響くような作品に仕上がっている。題と詩の言葉にも
余白が感じられて上手い。

受賞の言葉

詩部門第1席をいただきました日本文学科3年の高久恵美です。
今回は諸々の事情で応募できるかどうか微妙という中で、
時間を捻出して何とか書き上げて提出したという状況だったので、
まさか入賞するなんて考えてもみませんでした。
審査員の先生方には頭が上がりません。本当にありがとうございます。
創作コンクールには前回から続いて2回目の応募になります。
参加賞だった前回の反省も踏まえて、今回の作品には構成にかなり気を配りました。
お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、
空から大地へ下り、海へ辿り着き、また空へ昇る、という展開になっています。
そういった情景の移り変わりを読み取っていただければいいな、
と思っていますが、どれか一遍でも、読者の方に気に入っていただければ幸いです。
最後にもう1度、審査員の先生方に感謝を表して、
受賞コメントに代えさせていただきます。ありがとうございました。
2007年2月 高久恵美

第2席・講評

独特な世界を作り出している。前半言葉不足のところもあるが、
全体を通じて鳥の物語として構成していこうとする気迫と力量を感じる。
あかいショウビン、あおいショウビンの詩など、想像力のはばたきと
言葉の響きがあいまって不思議な感度を覚えさせる詩であった。

受賞の言葉

詩部門第2席、という評価をいただきまして、今は驚くばかりです。
慣れない詩の形式は、読み返せば読み返すほど拙さばかりが見えて、
縮こまるしかありません。
 鳥の視点で蛇の物語を書きたい。幻想種であったが、ただの鳥や蛇になった、
力を殺がれきった敗者の話を書いてみよう。と、思ったのが発想で
あったと記憶しています。
 方や千年毎に焼身自殺をする酔狂者。方や脱皮する毎に色々置き捨てる薄情者。
その不死を自負し不滅を望む者が、結末を迎える以外にどうしようもなくなった
――幻想が忘れられるときに、どこへ向かうのか。その答を探したかったのかも
知れません。書き切れたかどうかについては疑問が残りますが、
2007年2月 佐野比呂子

第3席・講評

言葉がとても素直に表現されており、行間に暖かさがあった。
無理のない言葉づかいとリズムで全編が貫かれているところも評価できる。
北原白秋のような、やや古風な詩(童謡詩)の印象がある。

受賞の言葉

このたびは創作コンクール詩部門で第3席に選考いただきありがとうございます。
今回の作品は、いじめで悩む子どもたち、苦悩の日々を過ごしている方々に
「いつか努力は報われる」、「あきらめなければ夢は叶う」という
希望を抱いて生きて欲しいと言う願いを込めました。
今こうしている間にも国際情勢、異常気象、自然災害などの悲しいニュースが
世界で報道されています。私たちは光の当らない場所に目を向けているでしょうか。
決して住みよいとはいえない地球ですが、だからこそ私たち人間がもっと
自然と共生する眼差しが必要なのではないかと思っています。
地球は人間だけのものではありません。このような時代でも文学は私たちに
至福の時を、夢の種を与えてくれます。古の人々が折に触れ喜怒哀楽を
書き留めたものが現代にも共感され愛される。私もこの作品を読んでくださった
皆さんに夢の種を蒔くことが出来たら嬉しいです。文学は生きることに悩み、
苦しみ、活路を開いてきた先人の知恵の宝庫です。そして現代こそ
温故知新の精神を今こそ生かすべき時なのではないかと痛感しています。
この作品が皆さんにとって、なんらかの力になれば幸いに思います。
末筆にはなりますが、今回はありがとうございました。
2007年2月 金井由貴子

小説部門

第1席・講評

表現力や語りの確かさに見るべきものがある。
SF的設定だが、リアルな感覚があり、引き込まれてしまう。
後半に進むに従って冗漫さが出た。
近未来社会の日常生活を描きながら社会批判を試みた意欲作で、
社会性の広がりは多少認められるが、上手く描ききれていないのが惜しい。
記憶が作り変えられていく過程がいい。

受賞の言葉

私はよく夢を見てハッとさせられることが多いです。
今回の作品も夢で見たことをベースにして書きました。
例えば、現実と非現実的なことの違いは何か?と問われると、考えるほど
私には分からなくなってきます。日常を過ごすことと、夢を見ることの
違いもそれと同じものな気がします。
私たちは無意識ながらも違う世界へ迷い込むことがあります。
それに気がつく人はあまりいませんが。
今回の作品の主人公は中学生です。中学生というのは、
一番色々な変化が起こる年頃だと思います。学校・部活・家庭・テレビの情報。
たったそれだけです。背伸びをしたい、でも1人ではまだ生きていけない。
身体的には生きていける力を持ちながらも、実際の狭い世界での生活の中で、
どうにかして感情をコントロールしようと彼ら彼女らはもがき苦しみます。
そんな状況を描きたいと思い、今回、作品を応募しました。
2007年2月 河本真希

第2席・講評

段落意識が乏しいために、構成がよく見えない。
文章は落ち着いていて、さらにストーリー性、物語(思い出)を語り継ぐという、
明確な主題も評価できる。暗い内容が多い投稿小説のなかで、
珍しく明るく暖かい雰囲気の物語。お伽話的な幼さの印象もあるが、
このジャンルで伸びていく可能性も感じられる

受賞の言葉

今回、1年生でこのような入賞の経験をさせていただいたことを
大変光栄に思います。実は今回の応募作品は、高校時代にあるコンクールで
最終候補に残った作品です。そのときは応募枚数の関係上あきらめざるを
得なかった箇所がたくさんあり、そのため、私の中でこの作品は不完全燃焼な
作品として残ってしまいました。そして今回、創作コンクールという機会に出会い、
自分の中の不完全な部分を燃やし尽くすべく改めて書き直しました。
そんなわけで、この作品は私にとってなかなか思い入れの強い作品です。
その作品で入賞できたことを、本当に嬉しく思います。それに加え、
書いたら書きっぱなしで普段は滅多に頂けない講評を頂くこともでき、
有り難い限りです。この経験を生かし、さらにより良い作品を書けるように
本を読みあさり、書きまくっていこうと思っています。
2007年2月  酒井真梨子

総評
大学附属図書館長 文学部教授 三田村雅子

2005年度から始まったこの創作コンクールですが、2年目の今年は
詩部門10作、小説部門8作の応募があり、いずれも前年を上回る
レベルの高い作品が集まりました。たまたま2席・2席・3席と差をつけましたが、
講評をお読みいただければわかりますように、甲乙つけがたい力作が揃いました。
詩の部門でも上位5作には等しく評価が集まりました。
どの作品も、充分な力作だったことを是非お知らせしたく思います。
詩の1席・2席・3席の中では、3席の『古往近来』がもっとも言葉・リズムが整い、
読んでいて心地のいい作品でした。この方は去年も入賞していますから、
本当に実力のある方だと思います。2席の『告の鳥』は言いたいことと、
言葉がなかなか噛み合わない、難解な作でした。評価は分かれるでしょうが、
もがくような言葉の果てに、成長と脱皮がうたわれようとしている、
その熱量に圧倒されました。この人は何かを掴む人だと感じられました。
第1席の『Fantasia』はバランスのいい、感度のいいうたいぶりで、
やさしいけれど印象に残るうたとなっています。センスの良さが光ります。
それぞれの個性をこれからも伸ばしていただきたいと願っています。
小説部門は応募作品のどの作品もうまいと感じました。文章も内容もかなり
書きなれていることがよくわかります。その中でどの作品が突出しているか
ということは、これもなかなか判断がつかず、票が大きく割れました。
最後に残った5作品は横一線だったと思います。
どれが入賞してもおかしくないという状況でした。
その意味ではこれも審査委員の恣意的な判断にすぎませんが、
SF的な設定がスリリングで、塗り替えられる「記憶」の問題が
実感をもって迫ってきたという点で第1席『月面探検隊』を、
おばあさんと少女の森の中での出会いと別れを描いたファンタジーで、
文章と全体の構成がよくできていて傷がないという意味で第2席
『森に住む妖精の物語』を選ばせていただきました。
第3席の斎藤のゝゑさんの『惜別交換日記譚』も、見事な文章力で注目を集めました。
大学という狭い器の中では、それぞれの方の持つ個性と可能性をどこまで評価し、
どこまで現在の力を読みきるかの判断がなかなかつかず、
審査をしてもこれで良かったのかどうか、まだ自信がありません。
言えることは、渾身の力を込めて投稿してきた応募作を受け止めて、
こちらも精一杯読ませていただいたということのみです。
これを機会にそれぞれの方がその潜在的な能力を伸ばして、
さらに外の世界へ飛躍していただければと願っています。
そのためにこの小さなコンクールと小さな「本」が跳躍台となれば幸せです。

2007年3月
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