フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
随想コンクール 結果発表-3

第3席 瀧下さよりさん
『スローフードな日本!』を読んで考えたこと

 小学校の頃から図書館が学校の中で一番お気に入りの場所だった私はその日も図書館を散策していました。その時、たまたま目に留まったのが随想コンクールのポスターでした。
自分の思いを言葉で表現するのがとても苦手だった私は夏休みの作文の宿題は8月31日に何とか終わらせるのが夏の恒例行事でした。ですから、学校や地域主催の作文コンクールに応募した経験など一度もありません。応募してみよう!という気持ちさえ持ったことさえありませんでした。そんな私が今回応募した理由は、大学生には今まで以上に生活のなかに自由な時間が与えられているから、その時間を有効に使って今までやってみようと思わなかったことに積極的に取り組みたいと思ったからです。
 みなさんは「スローフード」という言葉をご存知でしょうか。恥ずかしながら、私はこの本を手にとるまでスローフードという言葉の意味を勘違いしていました。この本のタイトルを目にした時私の頭の中に浮かんだ言葉は「忙しい人々よ、ご飯くらいもっとゆっくり食べたらどうだろうか。」という意味だったので、本を読んでみて自分の考えが大いに的外れだったことに衝撃を受けました。スローフードとは土地土地の郷土料理や家庭ごとに違う味、世界中にあるそんな多様な味を大切に守るとともに味わって食べようということだったのです。その衝撃で続きが気になり読み進めるとそこには更なる衝撃が。スローフードはファーストフードの対になる言葉でした。すでに知っている人からみれば「何を寝ぼけたことを言っているのだ」と思うかもしれませんが事実、私は知りませんでした。この本は私のようにスローフードについて無知でも、すでにスローフードな食卓を始めている人でも非常に多くの人が「食のあり方」について考ることができる一冊です。
 そもそもスローフードという言葉の生まれは1986年イタリアでした。ローマのスペイン広場の一角に世界最大手のファーストフード店「マクドナルド」が進出したのがきっかけで「若者たちが伝統の味を忘れてしまう」「ローマの景観を壊す」などの声から反対デモが繰り広げられていました。その騒動を少し遠くから見守っていた男たちが、「これからはイタリアにもアメリカ型のファーストフード文化が流れ込んでくるんだろうな…」「それなら僕らはスローフードで行こうや!」という一言から89年にスローフード協会を発足。現在は世界中45カ国に8万人強の会員を持つ国際組織となっています。なんと日本にも各地に40もの会が存在するのです。私はこの大学生活の中で機会があったらぜひ一度足を運んでみたいと思いました。
 スローフード協会は3つのことを柱として活動しています。ひとつめは、質のよい小さな生産者を守ること。ふたつめは、子供を含めた消費者への味の教育。みっつめは、ほっておけば消えそうな味を守ることです。
ひとつめの小さな生産者とは家族経営の農家や漁師のことです。現在の彼らは大量生産と大量流通をする大手企業や大量輸入に苦戦しています。消費者である私たちがこの十数年間で彼らを支えにじり寄っていかなければ日本の農業はヴァーチャルなものになってしまうと著者は言っていました。私も本当にそうだと思います。食糧自給率39%、農業就業率4%未満の日本。これがどんなに過酷な状況であるかをいったいどれだけの日本人が身を持って感じているでしょうか。実際、私自身も学校の授業でその事実を知ったからといってその日からどうこうしようという訳でもなく、ただ頭の片隅に豆知識として覚えておく程度の意識しか持っていませんでした。本を読んだことによってまず考えさせられたことは、これからの日本を担う若者が自分達はいったいどんな食べ物を食べているのかという点から毎日を見直す必要があるということです。また美味しいから、安いからという理由とは違う観点から食べ物に対しての関心を持たなければならないでしょう。とはいってもいきなり「私は今日から農業を始めます」とそんな大層なことは言えませんし、できません。だからとりあえず私は私のできることとして今年の夏休みに、父方の田舎に帰って祖母の農業を手伝ってみようかと思います。野菜を収穫したり、水やりをしたりする中で自分自身で農業を感じ、また祖母に過去、現在、将来の農業に対する思いについて色々聞いてみようと思います。
ふたつめの味の教育とは栄養学だとかそんな堅苦しいものではありません。まず、家庭の中で自分がいったい何食べているのかを知りこれからの子供たちに何を食べさせればいいのかを考えるのです。これから日本を担っていく若者達がやがては結婚し家庭を築く中でいったいどんな食育を子供たちにしてやれるでしょうか。私が将来主婦になって毎日のご飯を作るようになった時、果たして私は私の家庭を食卓をどれほどスローフードな食卓にすることができるのかな。と考えると心配になります。食卓がどのように彩られるかは家庭のシェフであるお母さん次第でしょう。今以上に輸入に頼り農業がなくなってしまうかもしれない日本の中で子供に十分な食育をして、健康に育てることは可能なのでしょうか。著者も言っていましたが、まず食育をしようという親がいったい何を食べているのか問題はそこからである。と。ですからこの機会をきっかけにまず自分の食から見直すことがスローフードな食卓への第一歩だと思いました。
みっつめの放っておけば消えそうな味というのは郷土料理のことです。昔ながらで手間ひまかけて生産された食品や加品を失ってしまったらそれは日本という国が持つ魅力のひとつが減るのと同じことではないでしょうか。日本の郷土料理が外国人にとって魅力的であることは言うまでもありませが、私は日本人にも外国人と同じくらい郷土料理の魅力を感じてほしいと思うし、守り続けてほしいと思います。近年、低価格競争の激化で大変お求め安い価格なのにその商品自体は更にレベルアップして一段と輝きを増すファーストフードに魅力を感じるのは結構なのですが、そればっかりでなくて家庭で料理する時にたまには郷土料理を取り入れることが将来の日本の食を形成することになると思います。
そんな日本の食の状態を受けて「我先に」と日本の小さなお豆腐屋さんが立ち上がりました。どうしてお豆腐屋さんが立ち上がったのでしょうか。それにはきっかけがありました。日本の大豆の自給率です。なんと日本の大豆自給率は外国からの遺伝子組み換え大豆に頼っているため、たったの3%にしかすぎないのです。たったの3%という自給率の低さも大いに問題ですが、さらに問題なのは遺伝子組み換え大豆を使用しているということ。遺伝子組み換えとはアメリカが進んで行っている開発で、栽培されている作物に遺伝子操作を行い新たな遺伝子を導入して内にある遺伝子を促進・抑制したりすることによってできた新種の作物開発のことです。それらは除草剤耐性、病害虫耐性などのプラス面の力をもっていますが生態系への影響、経済問題、倫理面、食品としての安全性などがいまだに計り知れないためにマイナス面も多くみられ問題となっています。特に食品としての安全性に関しては、特定の遺伝子組換え作物ではなく遺伝子組換え操作自体が食品としての安全性を損なっているとも考えられます。また現在の段階では人体への影響が証明されていないので遺伝子組み換作物を摂取することでとんでもないことが起こりうる可能性もあります。
私はよくスーパーのお豆腐を好んで食べています。安いし、カロリーが低くて健康的だし、なにより美味しいからです。私はお豆腐というのは安くて美味しいのが当たり前と思っていましたが、衝撃の事実を私は知ってしまいました。私が好んで食べていた豆腐は外国から輸入された遺伝子組み換え食品の大豆を使用し、化学凝固剤を使ってそれなりに食感をだして、大量生産されて売られている大型スーパーのお豆腐だったのです。いったいどれほどの消費者がこの事実をふまえた上で購入しているでしょうか。そこまで考える消費者はあまりいないのではないかと思います。やはりみな、値段や量に先に目がいってしまうでしょうし、仮に成分表示を見たとしても遺伝子組み換えがどういうことであるのかよくわからないのではないかと思います。事実、私もその内のひとりで言葉は知っていましたが毎日の食事で意識したことはありませんでした。
あのちいさなお豆腐屋さんは日本のこの状態を食い止め、消費者の意識を変えるために地元で国産のお豆腐販売を始めたのです。日本全体から見たら非常に小さなお店の活動ではありますが目標は大きく、「豆腐で世界を変える」と言っていました。私は日本が外国を頼ってしまうのは時代の流れだったり国の事情であったり仕方ないことだと諦めていましたが、日本の未来を見据えて実際に行動を起こしたお豆腐屋さんの心は素晴らしく、なかなかまねできない勇気ある行動だと思いました。
この本を読んでから私の食に少し変化が起きました。いつもだったら見ない成分表示をみるようになって、日常で自分が毎日食べるものや、日本の将来について気にかけることが多くなりました。今回私が知ったことはスローフードという世界ののひとかけらにしかすぎないことだと思います。しかし、そのひとかけらはまだ将来自分が何をしたいか具体的に決まっていない私に食という観点から日本に貢献できるような職業に就くという道もあると教えてくれました。
最後に、この本を読まなければ知りえなっかたことがたくさんあったのでやはり私どんなことで興味を持ったら挑戦してみるチャレンジ精神が大切だと思いました。そしてその心を忘れずにいれば小さなきっかけで自分を大きく成長させることができるのではないかと思います。
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