フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
09-3・私の宮部みゆき
2003年9月30日発行『読書運動通信9号掲載記事』3件中3件目
『ステップファザー・ステップ』の「家族」
 隣家に入ろうとし、事故にあった泥棒を双子が助ける。
双子の両親はそれぞれ愛人をつくって家をでてしまっている。
「泥棒」という弱みを握られた男は中学生の双子の「お父さん」となる。
一緒に暮らしているわけではないし、血のつながりがあるわけではない。
それなのに双子が「親」を必要とするとき助けてくれる「お父さん」。
双子は実の親を「父さん、母さん」と呼び、他人である泥棒を「お父さん」と呼ぶ。
そんな少し変わった「家族」のお話が『ステップファザー・ステップ』である。
 今回宮部みゆきの作品を紹介するよう依頼を受け、ぜひこの
『ステップファザー・ステップ』を、と思った。収録されている7本の
短編の中では、盗難や誘拐といった殺伐とした事件が次々と起こって
いくのだが、双子と「お父さん」の活躍により、それらの事件が見事に
解決を迎えていく。事件の解決とともに、職業泥棒の「お父さん」と
双子は恐喝といった手段により収入を得るのだが、少しの後ろめたさもなく
描かれているので、むしろほのぼのとした印象を受ける。決して良いことを
しているわけではないのだが、恐喝される相手も悪い点を持っているので、
それが悪いことだと言い切ることができない。というより、この本を
読んでいるときは「恐喝=悪」と思うよりも、双子と「お父さん」が
お金を稼ぐことができて良かった、と思うほうがはるかに多い。
 両親から見捨てられ、かわいそうな境遇にあるはずの双子は、ちっとも
不幸そうではないし、どちらかというとその生活を満喫しているように
感じられる。振り返るのは事件を推理するときのみで、その他の時は
常に前を向いて楽しく仲良く暮らしていく、そんな双子と「お父さん」
というキャラクターこそが、この『ステップファザー・ステップ』の魅力
であろう。
 この本は、北村薫や加納朋子に代表される「日常の謎」ものほどではない
けれども、人死になどが得意ではない人でも、安心して読むことができる
ミステリではないだろうか。「家族」の遭遇する事件の、発端から解決までの
経過を楽しむこともできるし、ちょっと変わった家族愛に触れることもできる。
ただ純粋に、かわいらしい中学生の生活を楽しむこともできる。ミステリ好きは
もちろん、今までミステリを敬遠していた人だって、絶対楽しめる本だと思う。
これからミステリを読んでみようと思っている人は、ぜひ入門書として
手に取って欲しい。
(文学部共同研究室副手 金井香代子)

[編集後記]10月からは、行事がめじろおしです。
第2回「国際絵本フォーラム」の企画「アンソニー・ブラウン」の
講演会・ワークショップが10月10日・11日に始まります。
「市民の二十世紀」ともども積極的にご参加ください。
(文学部教授 三田村雅子)
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