フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
02-3・『リトル ターン』の語る物語
2003年4月28日発行『読書運動通信2号』掲載記事6件中3件目
今年の一冊の本 2003 宮部みゆき
 この本の主人公は「リトル ターン」と呼ばれる1羽のこあじさしという鳥です。
1日の大半を海上に空中停止(ホヴァリング)をしながら水面に現れる
かすかな魚の影を待って過ごす「リトル ターン」の体の部品は、
空での生活以外に対応する術を持ちません。そんな主人公の「リトル ターン」は、
ある日飛んでいた次の瞬間に飛べなくなってしまいました。そこで彼は考えました。
体の部品が壊れてしまったのなら、修理しなくてはいけないと。
彼は念入りに体をチェックしました、翼、羽、脚、尻尾。しかし、
壊れた部分はどこもなく、結局壊れてしまったのは自分の外面ではなく
内面であることに彼は気が付きました。飛び方を忘れてしまった鳥・・・
ここから彼の自分を取り戻す陸上での冒険が始まります。
 この冒険は、希望がいっぱいのわくわくするような冒険でなく、また、
これから起こる出来事も決して読み手である私たちの興奮を呼び起こすようなもの
ではありません。ここで語られる「リトル ターン」の物語は自分を取り戻す旅
なのです。彼がこれから出会うものすべてが、少しずつ彼に大切な何かを
教えてくれます。では「リトル ターン」の無くしてしまったものは、
いったい何なのでしょうか。その答えは、きっと読み手である私たちの中に
生まれてくるものです。もしかしたら、新しく生まれてくるものではなく、
私たち自身が忘れかけているものなのかもしれません。現代に生きる私たちの
無くしてしまった大切な何かをこの作品は私たちに語りかけています。
 この作品は元々英語で書かれたもので、日本語版の訳者は『生きるヒント』
などで有名な五木寛之さんです。五木さんはあとがきの冒頭でこう述べています。
「これは奇妙な物語である。やさしいお話のようで難しく、わかるようで
わからないところがある。しかし、妙に心惹かれるところがあって、
なんなんだろうなあ、と読みながらずっと気になっていた」と。
私もこの五木さんのコメントと同じように今に至るまで時折気がついては
この作品を読み返しています。装丁も挿絵も大変きれいで、
ページ数も多くないのでとても読みやすい本だと思います。
ぜひ1度手にとって見てください。
あなたもきっと、「リトル ターン」に何かを教えられるのではないでしょうか。
(日本文学科4年 伊東真希)
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