フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
04-3・ビアトリクス・ポター (Beatrix Potter, 1866−1943)紹介
2003年5月30日発行『読書運動通信4号』掲載記事7件中3件目
●自然と共に生きた画家●
ビアトリクス・ポターはロンドンの裕福な家庭に生まれ、家庭教師によって
育てられました。友だちもいない孤独な少女時代、彼女は子ども部屋で
さまざまな種類のペットを飼い、写生をしてすごし、徹底した観察眼を養いました。
休暇時は家族とともにスコットランドや湖水地方に行き、自然の中で生活しました。
一人ですごすことの多かったポターは秘密のコード(暗号)で日記をつづり、
植物、昆虫を写生し、キノコの研究なども行いました。
ポターの生きた時代は女性が職業をもつことの難しい時代でした。
何度かの挫折を経験しながら、彼女は絵を描くことに専念するようになります。
1893年、かつてポターの家庭教師であった女性の子どもノエル少年が病気で
あることを知り、元気づけようと、絵のついた物語を書いて送りました。その後、
ポターはこの物語を本にし、カラー版絵本『ピーターラビットのおはなし』
(“The Tale of Peter Rabbit”,1902) が出版されました。
その後、ポターは結婚し、湖水地方に移り、ヒル・トップ農場の経営者としても
大成功しています。彼女は受け継いだ財産や印税で購入した土地を
ナショナル・トラストへ寄付し、英国の自然保護運動の基を築きました。

●作品の特徴●
『ピーターラビットのおはなし』の続編が『ベンジャミンバニーのおはなし』
(“The Tale of Benjamin Bunny”,1904)です。この物語はピーターの冒険の
続きが描かれています。『ティギーおばさんのおはなし』(“The Tale of
Mrs.Tiggy-Winkle“,1905) はポターの飼っていたハリネズミが主人公であり、
語りの口調は昔話的で、ユーモアある物語になっています。子どものころ
スコットランドなどで聞いた英国民話が、彼女の作品の筋や要素を形成するに
用いられました。なお、この絵本シリーズは全23冊になり、中には韻文で書かれた
『セシリ・パセリのわらべうた』(“Cecily Parsley's Nursery Rhymes”,1922)
なども含まれています。

●冷徹な観察者●
  ポターは生き物や景色をよく観察し、徹底して写実的に描きました。
これらの動物たちは自然のままの動物でしたが、一方で、登場者たちは擬人化され
人間のように立って服を着て活躍します。物語の舞台としては湖水地方にあるヒル・
トップ農場などが描かれ、湖水近くに生息する生き物が登場者になっています。
例えば、『ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』(“The Tale of
Mr.Jeremy Fisher”,1906) ではカエルが、『あひるのジマイマのおはなし』
(“The Tale of Jemima Puddle-Duck”,1908)では家禽のアヒルが登場者として
描かれています。『こねこのトムのおはなし』(“The Tale of Tom Kitten”,
1907)は彼女の住んでいたヒル・トップを舞台とし、家の様子やたたずまいは農場を
モデルにして描かれています。『ピーターラビット』とその仲間の絵本シリーズは
世界中で評判となり、多くの言語に訳されています。
 ここに引用されている部分は『ピーターラビットのおはなし』のはじめの部分で、
昔話風に導入されています。いつ、どこで、だれが、どんなところに住んでいたか
紹介され、伝承的な、聞き手をひきつける出だしになっています。 (原文は p.9)

ONCE upon a time there  むかし あるところに、
were four little Rabbits,  4ひきの ちいさなうさぎが
and their names were・・   いました。なまえは・・
Flopsy,            フロプシー、
Mopsy,             モプシー、
Cotton-tail,          カトンテール、
and Peter.            それからピーターでした。
They lived with their Mother   こどもたちは かあさんうさぎと
in a sand-bank, underneath the  おおきな もみのきのしたの
root of a very big fir-tree.   すなのあなに すんでいました。
(文学部教授 藤本朝巳)
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