フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2004年度16-2・先生方の一冊〜コミュニケーション学科設立記念 諸橋先生大特集-3
2004年5月17日発行読書運動通信16号掲載記事4件中2件目
特集:先生方の一冊〜コミュニケーション学科設立記念 諸橋先生大特集!
*この記事は1-5まであります。
読書遍歴 あるいは本との関係
まだ海外文学が力のあった70年代
中学3年に高橋和巳の死に接する前、1970年の中学2年の夏休みに
(大阪万博に行った年だ)、既に芥川賞を受賞していた庄司薫の
『赤頭巾ちゃん気をつけて』を読んだ。
69年の東大入試中止にぶつかって「大学に行かないこと」を選んだ主人公に、
ぼくはやがて大きな影響を受けることになる。その当時は、
「由美ちゃん」とのやりとりや主人公の性的な体験が目的で読み、
庄司の時代を見るシニカルかつ前向きなまなざし
(たとえば主人公の「大きな森のような男になろう」といった決意)が
よくわからなかった。
間もなく「薫くんシリーズ4部作」となる2作目
(ストーリーとしては3番目に位置づく)『さよなら快傑黒頭巾』を読むが、
こちらの方が同時代である1970年の学生風俗がわかって
(また女の子たちも魅力的で)面白かった。
 政治学者・丸山真男門下であった庄司のレトリック、民主主義観、
文体の影響を強く受け出すのは、エッセイ集『狼なんかこわくない』と、
『バクの飼主めざして』で72年の連合赤軍「浅間山荘事件」をめぐる
巻頭エッセイにふれてからだから、高校1年になってからのことだ。
この浅間山荘の攻防戦は、中3の時の高校受験の真っ最中だった。
どうも、受験前になるとぼくのシンパである学生たちの「夢」が
無惨にも破れる事件が起きていた感じがある。柴田翔の『贈る言葉』と
『われら戦友たち』を泣きたい気持ちで読んだのもこの前後だった。
 時代は、60年代後半の若者たちによる「プロテスト」「造反有理」から、
中学時代の「70年安保」の収束とともに「ラブ&ピース」を経て、
ぼくが高校生になると庄司が予見したように急速に「3無主義」か 「内ゲバ」に向かって行った。
 ぼくは例のごとく高校受験に失敗して近郊の公立高校に進み、
お定まりのように学校の勉強を全くせず、小説読みと音楽活動(作曲と作詞)に
耽溺することになり、いよいよ大江、開高、小田、柴田、高橋、野坂、五木、
井上ひさし、安部公房、倉橋由美子らを全て読破してゆくことになる。
「現代日本文学で最も良質の長編小説」を挙げろと言われれば、
いまでも10代からの持論で、大江健三郎『洪水はわが魂に及び』、
北杜夫『楡家の人びと』、高橋和巳『邪宗門』の3作を挙げるが、
大江のノーベル賞は『洪水はわが魂に及び』をリアルタイムで
戦慄とともに読んだ高校2年の時に確信し、その頃から
大江がノーベル賞をとることをぼくは「予言」していた。
この年73年には、オイルショックによるトイレットペーパー騒動が起き、
小松左京の『日本沈没』を嚆矢に終末論ブームが起きている最中だった。
浅間山荘事件とその後のリンチ殺人事件、終末論、いずれも大江の
『洪水(はわが魂に及び)』は、想像力により見事な造形をみせていた。
赤軍派による連続企業爆破事件が起きたのはその翌年の高3のことである。
 同時期、海外文学を乱読したが、ドストエフスキーが「洗礼本」だった。
『悪霊』を挙げられるとカッコイイのだが、やはり『カラマーゾフの兄弟』に
とどめをさすと言えるだろう。
英米文学は、中学から高校にかけて庄司薫の影響もあってサリンジャーや
フィリップ・ロスにハマり、大江がしきりに紹介していたヘンリー・ミラーや
ノーマン・メイラー、ジョン・アップダイクやソール・ベローと続き、
80年代からカート・ヴォネガット、そのあとジョン・アーヴィングへと進んだが、
そこで止まってしまった。ただ今でもアーヴィングやヴォネガットは
たまに読み返したりする好きな作家だ。
仏文学は、これも中学・高校時代にサルトル、カミュ、ボーヴォワールと
「お約束」のコースから始まり、ポール・ニザンにハマった。
そのあとはポンティ、バルト、フーコーと、思想界の方へと続いている。
ドイツ文学ではトーマス・マンとゲーテ、ヘッセ、そしてカフカなどを読んだ。
こう何でも齧ってしまうと、まるで筒井康隆の『文学部唯野教授』だ
(そして事実その通りになった)。
 あとは浪人時代からイタリアのパヴェーゼ、ドイツのギュンター・グラス、
それに一時期ラテンアメリカ文学に凝ったので、ガルシア・マルケスや
ルイス・ボルヘスなども読んだ。のちに、これまたフェリスで
これらの翻訳者・紹介者の先生に会えることになるのだから、
やはり“縁”があると言うべきだろう。
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