フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
29・30-12・特集.2 食と文学-6
2005年11月24日発行読書運動通信29・30合併特大号掲載記事16件中12件目
特集:1.携帯本/2・食と文学
お知らせ:1.文部科学省特色GP採択について/2.イベントについて
 
読むと飲みたくなる作品
『ホリー・ガーデン』 江國香織/著

果歩と静枝は高校までずっと同じ女子校だった。気づくといつも一緒だった。
それは30歳を目前にしても二人の友情に変わりはない。
傷が癒えない果歩の失恋に心を痛める静枝、静枝の不倫に
どこか釈然としない果歩。お互いがまるで自分のことのように感じている。
そんな中、果歩を無邪気に慕う中野くんも輪に加わり、二人の関係は
緩やかな変化が兆しはじめる。

江國香織『ホリー・ガーデン』の紅茶である。第1章からすでに、
タイトルは「紅茶茶碗」なのだが、紅茶茶碗で紅茶を飲んではいけないのだ。
私も、普通に紅茶茶碗で飲まれたのでは、そこまでこの作品の紅茶に対する
執心は持っていないだろう。主人公の果歩は毎朝、「カフェオレ用のボウル」で
紅茶を飲む。ただの紅茶ではなく、牛乳を入れて飲む。それでなくてはいけない。
この条件が揃っているから、この冒頭の部分を読むと私はいつも
紅茶が飲みたくなるのだ。
「カフェオレ用のボウル」というのが良い。「カフェオレ用」であって
「紅茶用」ではないのだ。本物を見た事はないけれど、ボウルというのだから
少しは想像がつく。丸くてたっぷりしていて、そこに牛乳をいれた
紅茶が入るのだろう。中野くんはこのボウルを「どんぶり」と言う。
「どんぶり入りの紅茶」、カフェオレ・ボウルよりずっとイメージし易い。
やっぱり丸くてたっぷりしていて、質素でお洒落な感じだ。
ミルクティーというのは、牛乳を入れて作るものが本物だと私は信じている。
喫茶店で出されるプラスチック容器のミルク、あれを入れて作るとき、
私はミルクティーの偽物を飲んでいるような気がしてならない。
熱いまま飲みたいときは牛乳を温めて、冷まして飲みたいときには
冷たい牛乳をそのまま入れる。紅茶と牛乳の比率も日によってまちまちで、
それが良い。リラックスして紅茶を飲みたいのなら、淹れるときから
ある程度ぞんざいでなければいけないと私は思っている。作品中、
紅茶にはきちんと牛乳が入れられて、ミルクティーが作られる。
そうでなくてはいけない。
作品の最終章「再び・紅茶茶碗」では、果歩は中野くんに「紅茶茶碗」で
紅茶を淹れる。それが私には残念でならない。昔の恋人を振り切って
紅茶茶碗を使うようになるのだけれど、それでもこの二人の新しい
関係においては、私は中野くんの好きな「どんぶり入りの紅茶」を
飲んでいてほしいと思う。
(日文2年 石井香織)
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