フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
35-5・感想文「永訣の朝〜朗読とレクチャー」を聞いて
2006年8月31日発行読書運動通信第35号掲載記事7件中5件目
特集:1・前期の活動を振り返る
特集:2・図書館員のオススメの本
感想文:「永訣の朝・朗読と講義」を聴く
紹介:宮沢賢治の本第3回
 わたしが宮沢賢治の本で一番好きなのは『注文の多い料理店』です。
小学生の時、初めて読んだこの話は、子供心にも、かなり度肝を抜かれました。
最後のオチには、恐怖をさえ感じました。今まで読んできた文学作品の中で、
これほど後味が悪く、恐ろしい話は他になかったからです。
ホラー的要素を含んだ話だと思いました。
 今回解説してくださった吉田先生は、宮沢賢治は「現実世界の中に屈折率を作り、
そこに不思議な世界」を作り出していったとおっしゃっていました。
確かに、『銀河鉄道の夜』でも普通の日常に突然不思議な出来事が
起きていたと思います。「手紙を配るように、文学作品を届ける」という
お話のように、『どんぐりと山猫』などで、子供たちに冒険への招待状を投げ掛け、
「好奇心」をそそっているようです。子供たちに「もうひとつの幻の目」を
養わせるためにしたのではないでしょうか。子供は驚くほど想像力が豊かで、
平凡なことでもすぐに興味を持ちます。宮沢賢治にはそうした子供への
気配りがあったのではないかと感じました。
 また、『春と修羅』が宮沢賢治にとって「宿命的な言葉」だと
おっしゃっていましたが、「宿命的な言葉」という捉え方はとても素敵だと思います。
宮沢賢治の写真を改めて見てみると、その寂しそうで孤独な姿に、
この言葉は似合うなと感じました。「春」と「修羅」は、互いに正反対の
意味を持っています。それは彼の「強さ」と「弱さ」のようです。
しかし、そのような矛盾を抱えながら、その言葉にめぐり合うことは
すばらしいと思います。「詩集『春と修羅』は岩手山巡礼の様相を呈していた」と
ありましたが、彼はどのような心境で岩手山を登っていたのか。
わたしも岩手山に登ってみたいと思いました。
 幻想的な世界を描く賢治ですが、現実はひどく過酷な運命を生きていたようです。
朗読を聞きながら、彼の詩には、どこか現実世界から逃避したい、
このような世界にはいたくないというメッセージが籠められているように感じました。
また、日本の地名や名前をエスペラント語に置き変えて物語に登場させていたことも、
やはり別の世界を見出だしたかったからではないでしょうか。
 ところで、かれには病気の妹さんがいて、その人に読み聞かせるために
童話を作っていたという話は、昔読んだ偉人伝で知っていましたが、
いざ野口先生の朗読を聞いてみると、はかない妹さんの言葉や、
宮沢賢治の優しさや苦悩がしみじみと伝わってきました。「無声慟哭」は特に、
二人の交流を濃密に描いています。高熱に気力を失いがちの妹を必死で励ます
宮沢賢治の言葉と野口先生の声はよく合い、その時の情景が鮮明に浮かんできました。
方言だったので、不思議なイントネーションでしたが、
それでもなぜかその声音に感情移入できるようでした。
「死者を弔う」という行為、それは、わたしのようにつらい経験をしたことの
ない者には分からない痛みですが、その痛切な苦悩の上に立った妹さんへの
思いやりこそが、賢治の童話に宿るやさしさなのでしょう。
それが、賢治の作品が今でも日本中で愛されている理由なのだろうと思います。
(日文1年 稲葉希代恵)

*「永訣の朝〜朗読とレクチャー」は、
読書運動連携「オープンカレッジ『セロ弾きのゴーシュ』・他を読む/第11回」 公開授業として、講師・吉田文憲先生、朗読・野口田鶴子先生により、
2006年7月3日に緑園キャンパス2号館で開催されました。
参加者数:92名

公開授業の様子
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