フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
36-2 特集 学び方のコツ-1
読書運動通信第36号掲載記事8件中2件目
特集:学びのコツ(特別寄稿 文学部助教授勝田耕起先生)
紹介:宮沢賢治の本 第4回
お知らせ:秋のイベント
特別寄稿 文学部助教授 勝田耕起先生
『日本語の語源』
阪倉篤義 著 講談社現代新書
請求記号 K||518  資料番号 190103900  緑園1階

 日本語の語源の話、皆さん好きですよね。学生も、日本語学以外の教員も、
学外の人も。だからクイズ番組で問題になったり、「日本語の不思議」なんて
タイトルの一般書で小ネタを仕入れておいてちょっとした世間話の折に
披露したりして、まあ楽しい時間を過ごす道具にしているわけです。
ところが詳しいはずの私や齋藤さん(*コミュニケーション学科齋藤孝滋教授)は、
むしろ大抵の場合、語源の話が出ても歯切れの悪い言い方しかしない。なぜか。
 それは、時間的・空間的な語形や語義の変化の事例を演習や学会で
たくさん見てきていて、変化の筋道やみなもとが、分かりやすい一つに
特定できない場合を知っているから。現代人である我々にとっての「合理性」は
必ずしも真の語源に結びつかないし、また、いつの時代の人も語源については
関心を持っていたようで、鎌倉時代の『名語記』や江戸時代の『日本釈名』
などいくつもの語源辞書が文献として残っているけれども、それらは
その時代・その個人の語源解釈・意識を示すのみで「こじつけ」が
大半であると言っていい。
 どうです、オススメ本の紹介なのに、つまらなくなってきましたか?
語源にもっとも関係が深い本学の授業は「日本語史」「日本語資料を読む」
だと思われますが、後者の発表資料の一部として語源説を用意する学生が
少なからずいます。私は上記の理由で大抵すっとばし、
担当学生をしょんぼりさせます。ごめん。でも、胡散臭いものと
そうでないものとを見極めさせることは専門教育にとって非常に重要なのです。
で、例えばそのションボリという語の成立を扱うなら、
上代からある「そぼ降る」「そぼつ」あたりと関係づければまっとうだと思います。
サ行子音は古くSH(ショ)、あるいはTS(ツォ)の可能性があるし、
状態性語基にリがついて副詞化する例はたくさんあります。
「ン」はどう考えましょうか。「ヒヤス(冷)」に対する「ヒンヤリ」と
関係が似ていますか。でもソボツはタ行自動詞、ヒヤスはサ行他動詞でちょっと違う。
じゃあツで終わる動詞には何があるか・・・という風に、音韻・文法・語彙の
視点を総動員して問題はどんどん膨らみ、そして全体の中の一つという位置づけが
確かになればなるほど説得力は増すでしょう。
 皆さんそれぞれに20年くらいの1すじの人生があるように、
個々の言葉にも生まれてから全体の中に位置づけられて認知されるまでの
歴史があります。そこには予想もつかないような出来事が起こったりして、
みな、良くも悪くも変化を余儀なくされて現在に至っているのです。
その厳然たる事実を後になって他人が辿ろうとするとき、
発言は極めて慎重でなければならないですよね。
空白を合理的な推測で埋めることが、事実を曲げることになるかもしれない。
そういう学問の難しさと厳しさに触れつつ、「めんどう」「いたし」
「あたらし」など身近な具体例を挙げて考え方を説く、知的楽しさに富んだ本です。
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