フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
37-5・紹介 宮沢賢治の本 第5回
2006年10月31日発行読書運動通信37号掲載記事7件中5件目
特集:旅
紹介:宮沢賢治の本題5回
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カイロ団長
『宮沢賢治全集5 貝の火・よだかの星・カイロ団長ほか』収録 ちくま文庫
請求記号 ミ||1||5  資料番号 100071230

 皆さんは、「カイロ団長」という作品をご存知だろうか。
あまり有名な作品とはいえないが、大変読みやすい作品なので紹介したいと思う。
宮沢賢治の作品に苦手意識を抱いている人には、ぜひ読んでもらいたい。
 この作品は、このようにして始まる。

あるとき、三十疋のあまがえるが、一緒に面白く仕事をやって居りました。
これは主に虫仲間からたのまれて、紫蘇の実やけしの実をひろって来て
花ばたけをこしらえたり、かたちのいい石や苔を集めて来て
立派なお庭をつくったりする職業でした。
 こんなようにして出来たきれいなお庭を、私どもはたびたび、
あちこちで見ます。それは畑の豆の木の下や、林の楢の木の根もとや、
又雨垂れの石のかげなどに、それはそれは上手に可愛らしくつくってあるのです。

この短い文章からも、労働の喜びと、賢治の自然に対する思いが伝わってくる。
しかし、ある日現れた、とのさまがえるの家来にされてしまい、
彼らの楽しい労働の日々は終わってしまう。この、とのさまがえるこそが
カイロ団長なのである。あまがえる達は、カイロ団長に脅され、無茶な労働を課される。
やがて、耐え切れなくなったあまがえる達が、やけくそになって
カイロ団長にくってかかる。するとその時、王さまの新しい命令を告げる、
かたつむりのメガホーンの声が響き渡ったのだ。王さまの出した命令により、
今度はカイロ団長が、無茶な労働をすることになる。これを見たあまがえる達は、
皆でカイロ団長を笑った。しかし、それから急にしいんとなってしまうのだ。
この後には、以降のような文章が続く。

みなさん、この時のさびしいことと云ったら私はとても口で云えません。
みなさんはおわかりですか。ドッと一緒に人をあざけり笑ってそれから
俄かにしいんとなった時のこのさびしいことです。

これは、自身の体験からくる賢治の思いではないだろうか。
この後、再び王さまから命令が下される。「すべてあらゆるいきものは
みんな気のいい、かあいそうなものである。けっして憎んではならん」という
命令であった。これを聞いたあまがえる達は、走り寄ってカイロ団長を介抱する。
カイロ団長は涙をこぼし、カイロ団をやめると言い、あまがえる達に謝るのだ。
この王さまの命令にこそ、賢治の思想が込められているのだろう。
短いながらも、確かに賢治に触れることのできる本作品を、ぜひ読んでもらいたい。
(日本文学科1年 高橋さくら)
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