フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2006年度を振り返って1
このタイトルは1〜13まであります
フェリス女学院大学附属図書館長 文学部教授 三田村雅子
 読書運動5年目の今年は、活動の充実と浸透ぶりが
一段と実感される年であった。まず、年度始めに読書運動に
自発的に参加してくれる新入生が飛躍的に上昇し、
特に勧誘活動を行わなくても、新しい学生さんの存在で、
読書運動ミーティングルームは活気づいていた。
この読書運動の部屋も懸案だったもの。従来安定した居場所がなく、
備品を抱えてあちこちを右往左往していたが、備品なども置ける
ミーティングルームが正式にできたことで、読書運動に入会したい
という学生さんを迎えることができるようになった。
図書館4階のミーティングルームは4つあるグループ学習室の中で
もっとも条件の悪い、狭い部屋をもらって、毎週木曜日のなごやかに
使用している。常に笑いとさざめきの絶えない部屋である。
欲を言えば、もう少し広い部屋をもらえれば、もっとうれしい。
図書館の片隅で、見えないようにやっているだけでなく、
皆に見えるところで、しっかり活動を積み上げていければと考えている。
 沢山の新入生を迎えて、1年のスケジュールも意欲的に展開され、
特に読書会が定期的に持たれたことが大きかった。
今年度のテーマの宮沢賢治は短くて面白い作品が多いので、
誰でも参加しやすく、講師の先生方(佐藤裕子・安藤公美・
安藤恭子・宮坂覚・諸橋泰樹・三田村)も、貴重な昼休みを
潰しての講師を気安く(ボランティアにも関わらず)、
前向きに引き受けてくださって、随分充実した会となった。
このような継続的な研究会が持てたのは1年目の
『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』
以来であり、読書の内容を深く掘り下げる読書会の継続は特別意義深く
感じられた。学生の司会ぶりやまとめ方にも長足の進歩が見られ、
各回ごとに貼られた学生作成の見事なポスターとともに、
読書運動の活発化を印象づけた。
 今年は読書運動関連の授業もスタートし、
前期には「宮沢賢治の小説を読む」をご専門の安藤公美先生に
ご担当いただき、後期には「宮沢賢治の詩を読む」をやはり
ご専門の吉田文憲先生にご担当いただいた。両方とも受講生も
たくさんで充実の授業となった。
また、前期に行われた「読み聞かせ」の授業では、依田和子先生の
ご指導のもと、読み聞かせの技術を磨き、学外の保育園に
出向いて読み聞かせを2度行うなど、地域とも連携した積極的な
活動に乗り出し、大きな成功を収めた。学生たちにとっても、
全身で読み、聞かせた、貴重な体験となった。緊張を抱えながら、
子どもたちのまなざしの真剣さに打たれ、期待に精一杯応えようと、
読み聞かせにも熱が入ったという。この読み聞かせ実演は
オープンキャンパスでも行われ、好評であった。
学生の成長ぶりが一際印象に残った。
 後期には三田村が担当して「読書とメディア」の授業を行った。
外部講師の先生への手配がうまくいかず、結果的には出版には
素人である三田村が出版と読書の現状と過去をお話しすることになった。
授業の準備が毎回大変だったが、現在の出版状況・読書の現状について、
包括的に認識を深めることができて、わたしには大変勉強になった。
授業中のアンケートによって、学生の読書の傾向、読書量、本との関わり、
本屋さん、図書館との関わりなども明らかになり、今後読書運動を
継続していくための指針を与えられた。出版不況と言われる状況の中で、
出版に関心を持ち、出版に就職したいと考えている学生が多かったのも
興味深かった。2007年度はプロの編集者による授業で、一段と本格的な
出版論が展開されることと期待している。
 宮沢賢治の作品を猫を主人公とした漫画に描き起こされ、
またアニメ映画として製作し、多くの共感を呼んだ、
ますむらひろしさんの講演会は大人気でフェリス祭の目玉となった。
合わせて、ますむらさんの作品展示を事前に図書館で行い、
アニメ映画も上映した。
朗読関係の公演も充実していて、前期にオープンカレッジの
受講生でもある宮沢賢治朗読家の野口田鶴子さんの朗読、
吉田文憲先生の解説による『永訣の朝・春と修羅』の朗読会があり、
会場は入りきれない聴衆で満員となった。内容的にも高度で、
充実の朗読会であった。その2週間後には朗読の大家、幸田弘子による
『よだかの星』の朗読会があり、渾身の朗読で聴衆の心を魅了した。
夏休みには学生による自主合宿(花巻,大沢温泉にて)も行われ、
学生メンバーのテーマに対する理解は一段と深まりを見せた。
学生同士が心をそろえてアイディアを出し合うような関係を
築いてくれたことが一番の成果だった。
11月には谷知子先生がご友人と学生とともに企画された「お話し音楽会」、
宮沢賢治の作曲した曲などを聴きつつ、楽しい音楽と読み聞かせの会であった。
図書館には260人を超える聴衆が集まり、終始、楽しくにぎやかな企画となった。
これは図書館読書運動始まって以来の大盛況で、計算違いで人がさばき切れず、
図書館の側はあわてふためいたが、企画と時期、やり方によってこんなにも
お客が呼べるのだと改めて再認識させられる経験であった。
また、2月には読書運動関連科目「朗読のレッスン」担当の
鈴木千秋先生による学生さんたちの『セロ弾きのゴーシュ』
『小さな王子さま』の群読会があった。学生のあまりのうまさに感激しつつ、
朗読を通じての作品享受に挑んできた読書運動の方向が見事に
結実したさまを聞くことができた。
12月には、音楽学部の先生方のご協力で詩と歌の
レクチャーコンサートがあり、声と言葉の響きを充分に楽しむことができた。
本当に贅沢な企画で、しばし夢のような時間を過ごすことができた。
音楽学部の先生方ありがとうございます。
1月には、宮坂先生の『風の又三郎』解説、日本文学科3年斉藤汐里さんの朗読、
平松英子先生の歌唱、ラファエル・ゲーラさんのピアノ演奏による
豪華なコラボレーションがあり、1年の活動を締めくくった。
全体的に、学生さんもまとまってよくやってくれたし、
図書館のサポート体制も充実し、先生方の自発的な協力も目だってきた。
企画も良く、手ごたえを感じることのできた1年だった。発足から5年目、
運動も認知され、自転し始めたということだろうか。うれしいことである。
その活動の内容を取材した朝日新聞によって、フェリスの読書運動が
大きく取り上げられたのも、「学生主体の活動」の活発さへの評価であろう。
この新聞報道には、読書運動に関わってきたすべての者が随分励まされた。
以後図書館に訪れてくれる人々も、好意的に関心を寄せてくれている。
こうして、全体としては極めて満足すべき成果を挙げた1年であったが、
気になることもあった。このような運動の成功にもかかわらず、
図書館の本貸し出し率がここ数年、やや下降線をたどっていることである。
なぜ、活動の活発化が図書館利用に直結しないのか、現代の学生さんは
図書館で本を借りるより、別の利用のしかたをしているのか、
いくつかの要因が積み重なってのことであろう。問題があれば
反省しなければと考えている。が、私たちとしては、「本」に親しむ
環境づくりという当初の目標を見失わないで、こつこつと成果を
積み重ねていく以外、対処法はない。あせらず、地道に、
しかし、しっかりと浸透していく活動を目指して、これからも
活動を継続していくつもりである。みなさまのお力添えをお願いしたい。
2007年3月31日


朝日新聞取材の様子
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