フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2005年度を振り返って-1
・図書館読書運動「特色GP」採択へ

 2002年度から始められた私たちの図書館の読書運動が、文部省の
特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)の1つに選ばれました。
10倍から11倍という倍率をくぐりぬけての快挙でした。特色GPはこ
れまでの活動の実績の問われる、厳しい審査でありましたが、結果
としては「図書館からの提案」という意表を突く試みとして注目を
集め、その創意工夫と全学を挙げての試みであるというところが高
く評価されました。図書館・学生さん・それを支えた教職員の方々
によって「地を這うような」努力を積み重ねてきた結果だと思うと、
感無量でありました。

・反響の大きさ

 フェリスの読書運動が特色GPに取り上げられたことは、大きな
話題となり、新聞・雑誌に取り上げられました。日本経済新聞・読
売新聞の全国紙に特にフェリスについての記事が取り上げられただ
けでなく、地元神奈川新聞では1面に取り上げられ、社会の「読書
の危機」に対する関心の高さを思わせられました。特色GPの内容を
全国の大学に広報するために行われたポスターセッションには、横
浜会場に加藤図書庸子館事務室長、福岡会場に鈴木明子図書館員、
名古屋会場に三田村と中村隆図書館員、京都会場には石巻恵美子図
書館員が参加しました。いずれも大変な盛況であり、改めて、フェ
リスの図書館読書運動が全国的に注目を浴びていること、これが、
現在の緊急の問題であることを肌で感じることができた体験でした。
読書運動の負担は正直大変なものなので、時々自分たちが何のため
にこんなに苦労しているか見えなくなる時もあったのですが、こう
して社会的関心が深く、いままでやってきた活動に高い評価が与え
られるのを聞くと感慨もひとしおでした。質問も、「この運動は参
加した学生の就職に結びつきますか」などという積極的なものもあ
り、そこまでは考えていなかったわたしどもも、これからはそうい
った側面からもこの「読書運動」を広げる必然性を感じました。

・この1年の変化

 特色GPの認定の結果、財政的にもおおきな支援を得てさらなる事
業拡大に挑んだこの一年だったけれど、これに伴う事務仕事の増大
と、プロジェクト拡大の負担は、図書館にも、学生にも大きな負担
でした。そんなわけで、やっとのことでこなした今年度の企画でし
たが、財政支援のおかげもあって、ハイレベルで、すばらしい講演
が多く、私自身興味を惹かれ、勉強になりましたし、学生ばかりで
なく、地域の方々に喜んでいただいたのは何よりでした。
 今年の一冊の本「ファンタジー」については、ファンタジー評論
家として名高い小谷真理氏の、女の子が飛ぶことについての鋭い分
析、『魔女の宅急便』の作者角野栄子氏の楽しい小説家になるまで
のお話、映画『ハウルの動く城』の原作を翻訳された西村淳子氏に
よる、原作と映画の違いについての講演、『指輪物語』の背景をな
す北欧伝承文学の言及者で、ファンタジー研究家としても有名な伊
藤儘氏のお話、日本のファンタジー「雨月物語」についての高田衛
氏の講演など、1つ1つが、ファンタジーとは何かを考える有効な処
方箋を提示してくれるものでした。講師の方々が「読書運動」に興
味を示してくださり、激励の言葉をかけてくださったことも、あり
がたいことでした。
 こうした一流の講師に講演いただくとともに、ファタジー作品の
特設棚による特別展示、ファンタジー映画の上映なども積極的に行
いました。映画参加者は必ずしも多くはありませんでしたが、参加
者全員から感動の声を聞くことがでました。

・音楽学部の協力

音楽学部でもこの読書運動に関連してドイツ・リートに現われる生
き物たちという題で、ファンタジーを同時代の音楽の側から考える
という試みを実践に移してくれました。三上カーリン氏によるレク
チャーコンサートで、これには音楽学部の先生たちが無料で出演・
協力してくれ、豪華なファンタジー関連企画となりました。また、
日本の近代・現代詩と歌のプログラムも佐藤裕子氏のレクチャーに
よって読書運動関連企画として実施されました。どれもすばらしい
企画で、音楽系の学部と人文・社会系の学部が同時にあることのプ
ラスを実感する瞬間でした。フェリスでは特色GPと共に、現代GP2
つが同時に発足したのですから、これから、音楽芸術学科を中心に
した現代GPや、国際交流学部を中心にした環境問題の現代GPとも連
携をとりながら、進めていければいいなあとつくづく感じました。
これらの関連企画は山手キャンパスのフェリスホールで行われ、普
段は緑園で催されている読書運動に参加できない音楽学部の学生さ
んたちにとっても、印象の強い企画となったと思います。

・受信から発信へ

 その他にも、学生の「読書力」を受信という側面だけでなく、発
信という面に生かしていきたいということで、朗読会を本格的に開
催し、その成果の批評を専門の先生にいただき、学生の朗読をCDと
して記録し、参加者全員に配布しました。水準の高い、「読み」が
競われた朗読会で、参加させてもらった私も緊張と興奮を感じるこ
とができました。その他大学祭でのウォークラリー、学生読書アン
ケートなども積極的に行い、その結果をあらたに構築されたWEBペ
ージに反映させていく方向を模索し、ようやく入力を始めたところ
です。これからも双方向的な刺激を交わしていきたいと願っていま
す。
 今年始めた企画としては、ストップ・バウ(女性に対する暴力に
反対する運動)関連企画として、課題図書の読書感想文を募集し、
その入賞者を表彰し、その文章を読書運動通信に載せる企画があり
ました。こうした学内の大きな企画に連動し、連帯しながら、図書
館もさまざまなかたちで読書を活性化する役割を果たしていきたい
と思っています。
 ストップ・バウ(女性に対する暴力に反対する運動)については、
イラストの展示も図書館入り口で行いましたし、秋には国際日本文
学会議「和歌の文化学」開催に合わせて、和歌関連の貴重図書の展
示を行いました。これも補助金によって初めて可能になったことで
した。
 年末には、創作コンクールを小説・詩・戯曲の3部門に分けて行い、
分量の多い枚数の応募規定にも関わらず、13人の応募がありました。
応募作には手ごたえを感じる作品も多く、審査には大変でしたが、
やりがいを感じました。1月にその受賞作の表彰を行い、その1席・2
席の作品を「本」のかたちにまとめ、本人に贈呈し、図書館にも置く
ことにしました。応募してくれた学生さんの中には、これをきっかけ
に詩を毎日書くことが習慣になったという学生さんもいて、創作コン
クールが自信を持つ契機になったことを喜んでいます。これを契機に
応募作を出版することになった学生さんもいました。この創作コンク
ールがどれほど「読書」を反映しているか、まだわかりませんが、応
募してくれた学生さんの作品には、「言葉」というものへの鋭い感覚
があり、語彙が豊富で、言葉と言葉を組み合わせることへのセンスが
窺われました。自分にとって本との出合いはどうだったかを「あとが
き」で語ってもらっていますので、それぞれの学生の「本」との出会
いと、その蓄積を生かした作品を皆さんにも広く読んでいただければ
と考えています。

・この1年の反省

 手作りで少しずつ始めた読書運動の企画でしたが、こうした注目を
浴びた段階では、それなりの成果を出さなければと、あせって空回り
したところも多かった1年目でした。私たち自身がこの新しい状況を
生かしてより有効な手立てを考えるゆとりを失っていたと振り返って
みて反省しています。次年度にはもう少し落ち着いて、気長に、楽し
く活動を続けていきたいと願っています。できることから、やれると
ころから少しずつ状況を変えていきたい、と今は切実に祈っています。
今まで、誰にほめてもらうつもりもなく、ただ自分たちがやりたいと
いう思いを生かすために始めてきた運動でしたが、これからも、あせ
らず、たゆまず工夫をこらし、楽しいしかけを作っていきたいと思い
ます。
「フェリスの一冊の本―読書の種を撒く―」というのがこの取り組み
の表題でしたが、「種を撒く」ように、ゆっくり気長に「読書」への
刺激と支援を企画・実行していくつもりです。読書を押し付けること
なく、みんなで楽しめればいいなと思っています。長いこと読書運動
に力を尽してきてくれた図書館の池内有為さんが五月に退職されたこ
とは大変な痛手でしたが、後を引き継いでくださった鈴木明子さんも
すごく有能で、学生たちをうまく率いてくださるリーダーシップに溢
れていてありがたいことでした。とりわけ、特色GP用のポスター作り
の大変さをみんな背負わせてしまって、お礼の言葉もありません。図
書館の事務室長としてすべてをみごとに統括してくださった加藤庸子
さんの尽力にも深く感謝しております。そのほか、お名前を挙げるこ
とができないくらい図書館の方々にはお世話になりました。また、三
浦翠さんを始めとする学生さんたちにも「ありがとう」を言いたいと
思います。あなたがたのすばらしい活動で図書館は確かに生まれ変わ
ろうとしています。図書館と読書運動の学生さんたちは少しずつだけ
ど、確かに成長しています。図書館と学生のコンビネーションもうま
くなってきました。それぞれが、それぞれの役目を果たしてさらにい
い1年にしていきたいと思います。来年度は読書運動関連の授業も始
まり、教育の現場でのサポートもあります。大学全体を巻き込み、地
域に開かれた読書運動をめざして、これからも努力していきたいと思
います。皆さんの応援をお願いします。

・蛇足・私自身の「読書」開眼

 蛇足となりますが、私自身にとってこの読書運動が何だったかをぜ
ひ付け加えさせてください。もともと「本」が大好きで、読書が好き
で、この「読書運動」に、みずからの生き甲斐を感じて熱中している
のですが、この読書運動に関わるようになって明らかに私自身の読書
傾向も変わって来ました。毎年のテーマの本関係のものを多く読むよ
うになっただけでなく、現代の学生さんが読みそうな本、好きそうな
本はどんな本か、絶えず書評誌をチェックし、新刊本を買い、良い本
を発掘することに熱中しています。年々頭が固くなって、読む本の傾
向も固定化していたのですが、「読書運動」を始めてからは新鮮な出
会いがたくさんあり、何より「今」という時代を呼吸している実感が
強くなってきました。
 私は源氏物語をはじめとする古典の研究者ですが、今に生きる古典
研究者でありたいと願っているのです。その願いに少しは近づけたか
なと感じるこのごろです。授業で取り上げる題材も随分変わってきま
した。こうした貴重な変化をもたらしてくれた「読書運動」と、そこ
で出会った若い学生さんたちの活力と刺激に感謝です。


活動展示の様子
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