フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2004年度を振り返って3
読書運動プロジェクトの与えてくれたもの  英文学科3年 櫛谷仁美
 「読書」はきわめて個人的な行為です。
この個人的な行為を学生中心に広めよう、
と図書館と先生方とタッグを組んでイベントを仕掛ける団体、
それが「読書運動プロジェクト」です。
一つの作品をとことん知らしめよう、
という試みは自社製品の売上をのばすべく
奮闘する企業の広報部に近い印象を受けます。
実際それに近いことを繰り広げてきた1年間でした。

 私は、この団体に入って1年目です。
3年生ですが、2年生のプロジェクト員より後輩になります。
私が2年生の頃、読書運動プロジェクトが一冊の本として
取り上げていたのは宮部みゆきの『火車』でした。
私たちの学びたいことという授業テーマも
彼女達が打ち出したものでした。
「お客」として見たきたあの1年間、
読書運動プロジェクトの行動力とイベントの内容に
反映されるクオリティーに驚かされました。
 今年、私はその一員として参加し、
村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』を
めぐって頑張ったつもりです。
おりしも自分にとっての村上春樹のデビューが
『風の歌を聴け』でした。6月に行われた学生主体のイベント
『喫茶潮風』の舞台(?)に上がる機会をもらい、
他のプロジェクト員と一緒に作品を読み込みました。
本番前は私たちが生まれていない70年代の空気に思いを馳せ、
本番中はお客さんからの反応から雰囲気をつかむという、
他では体験できないことをさせてもらいました。
その後も、文化祭ではクイズラリーの問題を考えたり、
講演会を依頼したりする中で、村上春樹の作品に触れることになりました。
読書運動プロジェクトに入らなかったら、
いまだに村上春樹を知らずにいたことだろうと思います。
ハルキファンの友人と話をすることも、
村上春樹の敬愛する作家スコット・フィッツジェラルド
について調べるために国会図書館に足を運ぶことも、
70年代に流行った音楽や映画に興味を覚え、
年配の方に質問したりすることも、なかったことになります。
 村上春樹は、自分の好みではない作家です。
しかしその一つに作品にかかわることで、
自分の世界がとても広がりました。
振り返ってみると「このプロジェクトにかかわる以上、
扱っている作品についてある程度知っておかねばならぬ」
という義務感だけでここまで来れたとは思えません。
他のプロジェクト員との話題の掛け橋にもなり、
イベントの核だった一冊の本はゆっくりと自分の中で
大きな存在となっていきました。
好き嫌いの尺度を越えたところに位置する不思議な小説との
出会いをくれた読書運動プロジェクトに感謝しています。

 これから新しい年を迎えるにあたって、
新しいプロジェクト員が入ってきます。彼女たちもこの場を通して
自己の世界を広げられることを願っています。
文学の勉強で得た知識そのものを社会に出てから会社で生かす、
ということは一握りの業界に入らない限りできないように思います。
個人レベルでなら可能でしょうが、多数の人たちを交えて、
目標をもって文学知識を深め合うことはないでしょう。
読書運動プロジェクトでは「書物」を通し、
授業で得た知識や自分で得た見解も応用できる場です。
ただ愉快な「面白さ」だけではなく、
知識欲を刺激する「面白さ」も追及できるでしょう。
仲間同士でお互いを高めあう格好の場、
それが読書運動プロジェクトだと感じました。
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