フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2005年度を振り返って-4
大風呂敷でも包めなかった年間テーマ  日本文学科2年  柿沼 友香
 今年で2年目の参加となる読書運動プロジェクトの年間テーマは
「ファンタジー」だった。去年は村上春樹の『風の歌を聴け』、
一昨年は宮部みゆきの『火車』と年間図書を一つの作品に絞込み、
作者や作品のバックグラウンドを深く読んでいったが、今年の
「ファンタジー」という前の年のテーマに比べて漠然としたテーマだったため、
テーマ決定後も学生メンバー、主任の三田村雅子教授、図書館のプロジェクト
担当の職員さん方で頭を悩ませた。
 それというのも、今年のテーマの範囲が広大すぎたことに原因があったのだろう。
一口に「ファンタジー作品」と言ってしまっても、ルイス・キャロルの
『不思議な国のアリス』を代表とする主人公の異世界ワープ型、芥川龍之介の
『杜子春』を代表とする異形の現実世界ワープ型、さらにJ.R.Rトールキンの
『ホビットの冒険』を代表とする世界と世界が交じり合わない旅行・冒険譚型と
様々な形がある。また、現代は何事に対しても多様化の時代でもあるがゆえに、
一口に「ファンタジー」と言ってしまうと、「ファンタジー要素」のみならず
「非ファンタジー要素」も多種多様化されてしまうのだ。
前期は西洋のファンタジー、後期は東洋のファンタジーについて読んでいきたいと
ミーティングで決まったものの、これが第1にして最大の関門として私たちの前に
立ちふさがったため、何度も重ねたミーティングでも幾度となく
「ファンタジーについての定義」を話し合った。おぼろげながらでも
読書運動プロジェクトのメンバーで共通する定義が決まらないと、
どのような基準で年間図書を選べばよいかさえも解らなくなってしまうからだった。
しかし、話し合えば話し合うほどファンタジーの定義は広がり、
また私たちそれぞれが今までファンタジーだと思っていた作品がファンタジーでは
ないような気もしてきてしまった。そのため結局はフェリス女学院大学の学生たちに
読書運動プロジェクトに関心を持ってもらうためと、映像化や教科書内テクスト
などのネームバリューで有名なダイアナ・ウィン・ジョーンズの
『魔法使いハウルと火の悪魔』と上田秋成の『雨月物語』がそれぞれ前期と
後期の年間図書に決まった。
こうして2冊の年間図書や、恒例となった映画上映会の作品では
J.R.R.トールキン原作の『ロード・オブ・ザ・リング』を上映作品として選び、
講演会に年間図書や年間テーマに縁のある教授方をお招きいただいたお陰か、
去年に比べて観客人数が増えたことを考えると、定義はどうであれ親しみやすい
テーマであったことは確かのようであった。その面から見ると
「読書への取っ掛かり」「読書に対する興味を起こさせる」という
読書運動プロジェクトの本来の意義は達成できたと考えられる。
しかし、メンバーで納得して年間テーマに取り組んだにもかかわらず
「やりきった」という完全燃焼な気持ちがあまりないのは、
やはり今回の年間テーマが読書運動プロジェクトのメンバーを含む、
誰もが親しみやすいジャンルのわりに定義がしっかりしていないテーマでは
なかったかと考えると少し複雑な気持ちになった。
来年度は宮沢賢治に焦点を定めた原点に立ち返った形のテーマ、
1人の作者や作品のバックグラウンドを読んでいくというものなので、
今回の成功も不完全燃焼な複雑な気持ちも踏まえて、読書が苦手な人も
読書にあまり関心がもてない人でも親しみやすく、且つ大風呂敷で
包み込めるような内容をやっていきたい。


大学祭、講演会に向かう人たち
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