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2003-2-1活動報告書 講演会（レジュメ、寄稿） |
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この記事は2003-2-1から2003-2-2まであります。
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| 宮部みゆき「火車」を読む――読者・ミステリ・現代 安藤 公美
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「フェリス一冊の本２００３年」第5回講演会 於緑園キャンパスキダーホール
今回は、前期の授業、「私たちが学びたいこと」から、読者の層、話型としてのミステリ、
「火車」の現代性という4本の柱でお話させていただこうと思います。「火車」を読む
面白さと同時に、文学を研究していくものとしての自覚のようなものもお話できれば
と思います。
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まず、前期に行われた授業のことからお話ししましょう。「火車」についてそれぞれ
担当のテーマを決めて発表をしましたが、そのテーマ分けは、都市空間、物語構造、
社会問題、家族論、ジェンダーとジェネレイション・文化論、語り・引用、文学場・作家論と
多方面に渡りました。それぞれが、非常にユニークな意義深いプレゼンをし、その成果は、
『現代のテクスト「火車」』という冊子に形として残されました。「火車」には、
ミステリとしての面白さ以外に、その表現方法や、また家族やジェンダー、戸籍や
クレッジトの問題など、現代的な視点がありますので、教材としては格好の小説でもあり、
それらは授業を成功に導きもしたのですが、一方でいくつかの問題も孕んでいました。
この授業では、発表者以外の学生がプレゼンを聞いた上でのコメントを毎回提出したのですが、
そのいくつかに、気になるコメントがありました。一つは、作家論の話が出たときの、
一部の拒否反応です。そしてもう一つが、社会の、或いは現代の教科書として素晴らしい
小説だという意見です。何が問題かといえば、ここには、否が応でも読者、多様な読者の
姿が投影されているという点です。私たちは、小説、あるいはテクストを前にしたとき、
どのような立場を取るのでしょうか。
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私たちは、小説を前にしたとき、どのような読者となりうるのでしょうか。私は三つの
層を意識的に考えたいと思っています。その三つとは、�仝充造瞭票圈↓�語り手が語る
相手、��モデル読者・理想の読者という三つの層です。まず、「現実の読者」とは、
本を手に取って、ページを繰っていく私たち読者のことです。宮部みゆきの愛読者であれば、
ネットで大極宮を見たり、作家のサイン会へ出かけてみたりもするでしょう。電車の中で
本を開いてみたり、家で寝転がって読んだりする、実体のある読者を指します。次に、
「語り手が語る相手」とは、騙され役ともいえます。語り手は、真実を語るわけでなく、
自分の語りたいようにしか語りません。語り手は、自分が知っていることしか話さない
だろうし、こてこてのイデオロギーに染まっている場合もあります。この語り手に対する
聞き手が、この第二の読者になります。物語内の見えない読者ということになるでしょう。
作者の存在も、知らなければ、本の表紙を見ることなく、タイトルも知らず、2003年の
今を知る由もない。それでも、この読者なくして、語り手は語ることが出来ないわけ
ですから、責任は重大です。「火車」では、語り手として本間という休職中の刑事が
選ばれています。この本間の声を素直に聞くのが、第二の読者ということです。そして、
第三の「モデル読者・理想の読者」ですが、これが最も重要になります。「現実の読者」の
生々しい肉体を捨て、「語り手が語る相手」の素直さを捨て、この二つの上位に位置する
読者とでもいいましょうか。もちろん作家の意図なるものをも超えた読者であって、
テクストのメッセージを最大限に生かせる読者とも言えます（Ｕ・エーコ参照）。
実は、「火車」の読後感は大きく二つに割れています。この小説の結末は本間刑事が
探し続けた犯人と思しき女性が発見されるところで終わるのですが、果たしてこの女性が
本当に犯人なのか、そもそも犯罪は起こっていたのかすら小説の中では明らかに
されないのです。この結末をめぐっては、「これでいいのだ」と感心する読者と
「続きが知りたい」と怒る読者に割れています。何故このような現象が起こるのかと
いえば、読者の期待がまったく違うところにある、つまり読者の層の違い故なのだと
言えるでしょう。「火車」がミステリであるなら、それはミステリに対する期待の
地平の問題でもあると言えるでしょう。
宮部みゆき自身は、この結末について次のように言っていました。「最後まで行って
犯人が出てきて終わっちゃう、この仕掛けはタイトルとほとんど同時に思いついたん
です。」「これは一発ネタですから、最後まで読んで怒る人もるかもしれないというのが
あるじゃないですか。私は、探しに探していた人が最後に出てきたところで終わりに
するのは仕掛けとして「カッチョいい」と思っていたけれど、「出てきただけで終わり
かよ！」って怒られることもあるかもしれない」
（朝日新聞社文芸編集部『まるごと宮部みゆき』（朝日新聞社、2002.8）。
何故怒るのかと考えれば、ミステリとしてのルールが守られていないことに立腹
しているのだと想像されます。では、ミステリのルールとは一体何でしょうか。
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