フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
2007-2活動報告書・読書会-5
2007-2活動報告書・読書会-5 *この記事は1〜5まであります
第五回読書会『バッテリー』
本年度の「一冊の本」である『バッテリー』の読書会は、三田村
雅子先生をナビゲーターとしてお招きして行われました。『バッ
テリー』は全6巻ということもあり、読書会を2回開催したのですが、
それでも時間が足りない、というほど様々な意見や感想が話し合わ
れました。2回にわたる読書会は、それれの感想などを語ることから
始まりました。学生たちからは、「巧の変化や今後が気になる」
「人の成長が描かれており、児童書なのに奥深い」「甲子園など
にも興味をもつようになった」などといった感想が出ました。
また、「巧に共感できなくて、1度は読むことを挫折した」という
人や「人間関係の描写が生々しくて苦手」という人も居ました。
息子さんがいるというオープンカレッジ生の方は、「男の子の群れ
方やライバル意識が、優しい見方で描かれている」と学生とは
異なる視点で感想を語ってくれました。いわゆるスポーツものの
定番のストーリー展開には、大会が欠かせません。しかし、
『バッテリー』は、6巻もありながら大会はおろか公式な試合すら
行われないのです。だからこそ、その分丁寧に登場人物が描かれ
ているのです。

本書のタイトルでもあるバッテリーは、ピッチャーとして天才的な
才能を持つが、球を投げることだけに固執して他には一切関心を
払わない巧と、その巧の才能に惹かれて野球を続けることにした
キャッチャーの豪です。しかし、この2人を主人公と呼ぶことは
できないでしょう。強豪校のバッターである門脇も、巧の弟の
青波も、この作品の登場人物全てが主人公に足る確固とした人物
背景をもっているからです。読書会の参加者からは「巧の弟として
ではなく、青波のストーリーも大きかった」や「暴力事件を起こした
悪役も憎むことが出来ない」という意見も多く出ました。この人物
設定の細かさや、輝かしいばかりでない青春の負の部分の描写が、
「児童文学」や「青春もの」と括るには非情ともいえる程の生々しさ
を読者に感じさせるのでしょう。

 そして、三田村先生は「『バッテリー』は〈境界〉の物語だ」
という指摘をしてくださいました。「物語の冒頭で、巧の家族は
おろち峠を越えて新田へと引っ越して来る。そしてその季節も、
冬と春の間という境界なのだ」と。このご指摘を聞いてから
バッテリーを読み返してみると、バッテリーという関係も一種の
境界といえるのではないだろうかと思えました。そして巧が練習に
訪れる神社は、まさに神の領域です。ランニングの帰り、神社の
山から迷いながら下りてきた巧は初めて豪と出会う。この出会い
方は、孤高の少年が管理される枠の中に入っていくという物語を
象徴しているのではないだろうかと思い至りました。巧は、押し
込められた枠の中でも飼い馴らされるのではなく、もがきながら
自身も周囲も変化させていきます。多くの参加者が、巧を理解
できないと語りながらも、強く『バッテリー』の世界に引き
込まれたと話していました。読書会を通じて、この「わからなさ」
も『バッテリー』の魅力なのだなと思えました。
                 感想・報告 日本文学科 2年 高橋さくら
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