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2006年10月31日発行読書運動通信37号掲載記事7件中2件目
特集:旅
紹介:宮沢賢治の本題5回
お知らせ:募集・イベントほか
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『日本人が知らない世界の歩き方』曾野綾子 著 PHP新書
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大学生は海外旅行をするものだ、というイメージを抱いている人は多いことだろう。
しかし、私は海外旅行へ行きたくない。決して外国に興味がないという訳ではない。
世界遺産の特集などをテレビで見ることは好きだし、純粋に憧れも抱いている。
では、なぜ海外へ行くことを避けているかというと、「日本人の観光客」として
見られたくないからだ。こんな私だからこそ、本書のタイトルを目にした時、
手に取らずにいられなかったのである。
さて、本書の内容である。本書は、曾野綾子がこれまでに出版した作品から、
海外での体験についての記述を抜粋し、まとめたものである。そのため、
アジアやヨーロッパなどの地域ごとに章分けされており、その中の各項目は
1〜3ページと大変短い。当然、描写も少ない。これが逆に想像をかきたてるのである。
また、曾野綾子という人の立場も興味深い。彼女は、作家として活動する一方、
政治・社会活動も行っている。これらの立場から書かれた各項目は、
観光客の視点や体験とは全く違い、改めて「世界」というものを考えさせられる。
といっても、重い内容ばかりではない。本書に数回登場するのが、
各地の美容院での話である。中でも、おもしろいと思ったのは、パリでホテルの
ベルボーイにおいしいレストランを聞いたところ、いかにも観光客向けの
カフェを教えられた。その点、美容院へ行くとたいてい男性の美容師が自分の
いきつけの、いいレストランを教えてくれる、というのである。
なるほど、と思った。旅行先で美容院へ行こうと考える人は少ないだろう。
店側も外国人を主なターゲットとしては見ていないはずだ。
だからこそ、その土地の生活に深く触れることができるのである。
このような経験をすることにこそ、旅行をする意義があるのではないだろうか。
曾野は、「今多くの日本人が、実に多彩な土地へ出かけているが、
ほんの1点2点、違った見方ができれば、旅の陰影はさらに深くなるだろう」と
いっている。どうやら、私の海外旅行への考え方は、大変偏っていたようだ。
本書を読んでそのことに気づかされた。旅行へ行く機会の多い大学生にこそ、
本書を勧めたい。
(日本文学科1年 高橋さくら)
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