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2003年4月28日発行『読書運動通信2号』掲載記事6件中4件目
今年の一冊の本 2003 宮部みゆき
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この本は俳優の穂積隆信という方が1982年に書いた本である。
ベストセラーとなり、方々で宣伝やら紹介やらされていた本なので、
記憶に留まっている方も多いのではなかろうか。副題に「親と子の二百日戦争」
とかかれているように、非行に走った娘とのやりとりを始め、
人格改正される様を書いたもので、私は自分の推薦する図書は何かと聞かれると、
真っ先にこの本を挙げる。妻の日記のいち部を引用したり、
警視庁の少年相談室の方とのやりとりをありのままに書いたものであり、
決して秀麗な文体を用いている訳でもなく、
美麗な言葉で飾り立てているものでもない。
しかし、それ故に心に訴えかけてくるものがあるのだ。
私自身には子育ての経験もないし、弟や妹がいる訳でもないので、
子育ての大変さというものを第3者の立場で身近に、長期的に見た事はない。
しかし、この本を通すと不思議と親の気持ち、子の気持ちというものが
伝わってくるのだ。親だからこそ思いやれる事、つっぱっているが
故に素直になれない子供の気持ち……。
子育てを経験した方々からすれば、本から学び取るものなど、
本当に理解出来たとは言えない、と反発を戴くかもしれないが、
少なくとも、聞いた事のある、どんな子育ての話しよりも
この本を読む事での方が理解は深まったと思う。
私がこの本を薦める理由は、上記の通り、子育ての大変さが伝わるから、
というのも勿論であるが、ありのままに書かれた文章の素晴らしさや、
ありのままに書かれているからこそ感動で出来るといったような1つの文体を
楽しんで欲しいからである。親視点の日記調であるのにも関わらず、
親の気持ちばかりでなく、子の気持ちまでもが痛いばかりに伝わってくる。
近頃はとかく秀麗な言葉が好まれがちではあるが、正面から筆者の心を感じ取って、
鑑賞する事の出来る、率直な文体文も味わって戴けたら、と思う。
(日本文学科3年 桜井静香)
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