 |
2006年10月31日発行読書運動通信37号掲載記事7件中3件目
特集:旅
紹介:宮沢賢治の本題5回
お知らせ:募集・イベントほか
 |
 |
|
 |
『自転車少年記―あの風の中へ―』竹内真 著 新潮文庫
|
 |
本作品は、今回のテーマである「旅」からは少し外れているかも知れない。
「旅」というよりは、むしろ「自転車の話」だからである。
しかし、あえて本作品を紹介したいと思う。本作品を読むことで、
自転車という短い旅もいいと感じてもらえることだろう。
主人公の昇平は、自転車に乗ることが好きな青年だ。彼の人生には、
常に自転車があった。物語は、昇平が友人の草太と伸男と一緒に、
進学のために東京へ向かって南房総を旅立つところから始まる。
彼らは、車でも電車でもなく自転車で東京を目指す。百キロ以上の道のりを
走って行くことに、昇平は胸を躍らせる。この姿は、彼らのそれからを描く
物語を象徴している。途中、伸男が地下鉄を使ってワープしたり、
道に迷いそうになったりしつつも、1日がかりで無事に昇平の暮らすことになる
アパートに着く。以下は、初めてのアパートで過ごす夜の、昇平の独白である。
ただ進んでいきたいという感覚は、確かに僕の中にある。
自転車で走っている時もそうだし、これから始まる東京での生活だってそうだ。
僕の人生ってものについても、ただ前へ前へと進んでいきたいと思っている。
先に進むことで見えてくる景色を見たいし、そこで自分がどう変わるかが
楽しみなのだ。知らない場所で道に迷いそうな不安もあったけど、
今の僕ならそんな状況だって楽しむことが出来る。
ここに私は、自転車での旅と、人生という旅との重なりを見た。
本作品の大事なイベントとして欠かせないのが、「八海ラン」である。
これは昇平の友人の草太が、大学で立ち上げた自転車サークルが主催する、
八王子から日本海までを走るイベントだ。この「八海ラン」は、後に
「八海ラリー」となり、外部からの参加者も受け入れるようになる。
そして、昇平や伸男もこのイベントに参加するようになる。
回を重ねていくうちに、それぞれが結婚したり、子供ができたりする。
「八海ラリー」は、それぞれの家庭にとっても大事なイベントとなって
続いていくのだ。
本作品は、昇平の得意とするダウンヒルのように、坂道を下っていく感覚で
一気に読める作品である。そして、読み終えた時には
清々しい気分に浸れることだろう。
(日本文学科1年 高橋さくら)
|
|