フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
45-2.特集 ライトノベルの現在-1
2007年9月30日読書運動通信第45号掲載記事5件中2件目
*この記事は1-3まであります
特集:ライトノベルの現在
お知らせ:創作コンクール,ザ・表現!作品募集
紹介:私の好きな児童文学〜第5回
募集:創作コンクール、ザ・表現!他
毎月膨大なタイトルが出版されているライトノベル。
主なターゲットはヤングアダルトといわれる中高生ではありますが、
いまや読者は小学生から団塊の世代まで。
一体何がこれほどまでに私達を引きつけるのでしょうか。
児童書とも関わりが深く、またその作者が、いわゆる大人向けの作品を発表して
高い評価を得ている現在、ライトノベルの魅力をのぞいてみましょう。
(図書館事務室)
『塩の街 wish on my precious』有川浩 著
メディアワークス 電撃文庫 所蔵なし 発注中

      この作品は『図書館戦争』シリーズで有名な、有川浩の処女作である。
私は以前、この著者の『図書館戦争』『図書館内乱』を読み、
作風がとても気に入っていた。だから地元の図書館でこの本を見かけたとき、
とても興味をそそられた。
 舞台は「人間が塩になってしまう」という「塩害」が発生した近未来の日本。
物語の中心人物である二人の男女、秋庭と真奈は、塩害によって崩壊しかけた
東京に住んでいた。真奈には両親がいない。そして彼女には
「見なくてもよいものまで見てしまう」性格故か、犬や猫、
果ては人間まで拾ってくるという癖があった。
そんな彼女が暴漢に襲われかけたところを助けてくれたのが、秋庭だ。
様々な人が、二人の前をまるで走馬灯のように過ぎる。
そしてある日、二人の元を訪れた人物によって、話は大きく展開していく。
 物語後半に登場する航空自衛隊や米軍基地の描写、塩害の正体、
そして塩害によって崩壊した社会のなかでさらけ出される人間の本性など、
随所に有川浩らしさを見ることができ、この作品が彼女の原点なのだと、
感じさせられる。
 彼女の作品はどれも架空の近未来世界が舞台となっているが、
そこにはSFのような超科学兵器が存在するわけでもなければ、
ファンタジーのように魔法が存在するわけでもない。
彼女の作品に描かれるのは、自分の信念や大切なもののために一所懸命がんばる、
格好悪くも真っ直ぐな、等身大の「人間」である。英雄のように強いわけでなく、
超人的な力をもっているわけでもない。臆病で時に馬鹿なほど正直で、
目先の欲に惑わされることさえある。そんな「ただの人間」である登場人物たちが、
大切なもののために自分の出来ることを、ほんの少し勇気を振り絞ってやってみる。
自分にとっては世界よりも大切なもの、愛するものを守るために。
その「等身大の人間」のがんばりこそが彼女の作品の最大の魅力だろう。
読んだあとに、思わず自分ならどうするだろうか、と考えてしまった。
初版は2004にメディアワークスの「第10回電撃大賞」受賞作として
電撃文庫から出版された。今年6月、大幅に改稿した上、
番外編として短編4篇を加筆し、ハードカバー単行本が出た。
是非、読んでみて欲しい一冊である。
(日文三年 矢島陽南子) 
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