フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
38-4・特集 人生-3
2006年11月30日発行読書運動通信38号掲載記事6件中4件目
特集:人生
紹介:宮沢賢治の本〜第6回
お知らせ:イベント
『星の王子様』 サン=テグジュペリ/著 内藤濯/訳
請求記号 909.8||I95||1  資料番号 102149540

「いちばん大切なことは、目に見えない」
 この本を読んで1番心に残った文章である。
 この本をはじめて読んだのは小学生のときだった。 そのときは授業で扱った課題図書のひとつ、といった程度の印象しかなかった。
大学生になって、もう1度この本を読んだとき、私のこの本に対する考えは
ガラリと変わっていた。
 この話の主人公である「王子さま」は、私たちの感覚からすればおかしな、
変わった少年である。この少年は何に対してでも興味をもち、
さまざまな星で出会った人に、「なぜ?」とストレートに問いかける。
その質問は、私たちにとっては当たり前のことであったり、
なぜそんなことを聞くのだろう?と思ってしまうようなことが
ほとんどだというのに、私たちはハッとし、考えこんでしまう。
私たちの盲点をついてくるような彼の質問が、忘れかけていた物事の本質を、
思い出すきっかけとなるからだ。
 王子さまの言動は、作者の複雑な生い立ちを反映しているように思う。
フランスの由緒正しい貴族の長男として生まれた著者は、
幼いころは金髪でかわいらしく、まるで「星の王子さま」
のようであったと言われている。
 だがその人生は決して平坦なものではなかった。
三歳のときに父が亡くなり、16歳の時には2歳年下の弟が病死。
さらに、第1次世界大戦が始まると同時に母と離れ、
寄宿舎で1人さびしい生活をおくるようになる。
その後、ありとあらゆる手段を講じて念願のパイロットになったものの、
腕前はけして良いとは言えず、協調性にも欠けていたようで、
離職してはコネを総動員してパイロットに復帰する、
ということを何度か繰り返している。
しかも、結婚生活も順調ではなかったようだ。
「星の王子さま」は1943年にアメリカで出版されているが、
執筆の原動力となったのは、1935年にリビア砂漠で
飛行機墜落事故を体験したことによると言われている。
そして、偵察飛行の最中に消息を絶ち、44歳で亡くなっている。
 この物語には彼の人生観が色濃く反映されているように感じられる。
王子さまは子供のころの自分であり、パイロットは大人になってしまった
自分と見なせば、この2人の登場人物はどちらも作者の分身ということができる。
そして、私たちが日常の中で忘れてしまっている大切なことが、
この2人の会話にはたくさん詰め込まれている。
『星の王子さま』は破天荒な人生を送ってきたサン=テグジュペリの遺書のように、
私には感じられた。
(日本文学科2年 矢島陽南子)

  *『星の王子さま』は最近複数の出版社から新訳が出ました。
フェリスの図書館でも購入していますので、検索してみてください。
                 
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