フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
40-4・特集2.スポーツと文学-2
2007年4月30日発行 読書運動通信40号 掲載記事10件中4件目
特集:1.新年度テーマについて 2.スポーツと文学
紹介:私の好きな児童文学〜第1回
お知らせ:イベント、募集、他
『バッテリー』(1巻)あさの あつこ 著 角川書店
図書館カウンターにて1冊200円で販売中

 まず、この本の作者、あさのあつこの子供の心理描写に感心しました。
私は、常々子供の世界は、大人が思っている以上に複雑だと思っていました。
それを私たちは大人と呼ばれはじめる頃から徐々に忘れていっている
のではないかと考えるのです。
子どもには子どもの世界があります。そこは複雑で人間関係も大人社会と同様、
あるいはそれ以上にシビアです。子どもはまだ一般社会との関わりが希薄な分、
自己主張も強く、大人からすれば未熟とも見えます。でも実際は違う。
あさのあつこは、私たち大人が見落としているだけで、そこに確かに
存在する子どもにしか見えない精神世界を見事に描写しています。
主人公の巧の自信にあふれた言動、しかしそれと裏腹な、まだまだもろい心のうち。
この表現の妙が、この作品の核でないでしょうか。
巧を囲む登場人物もまた魅力的。巧とバッテリーを組む豪はもちろん、
私が特筆したいのが、兄の巧にあこがれる青波のキャラクターです。
幼く病弱な彼が、兄とは違った野球を模索する姿が健気で愛着がわきます。
独特の方言もまた、彼の魅力をいっそう際立たせています。
巧の母の描写にもリアリティーがあります。思春期を迎えた、
それでなくとも扱いにくい巧と、従順だが病弱な弟の青波。
この二人の母としての面と、転勤族の夫を持つ妻としての面。
そして井岡洋三(巧・青波の祖父)の娘としての一面。
この心理描写も読者を飽きさせません。
一巻は登場人物を紹介するのにページがさかれ、話の展開はゆっくりですが、
二巻以降の巧と豪の活躍、青波の成長は目を見張るものがあります。
完結の六巻まで、一気に読んでしまいたい気持ちを
押さえるのが難しいような作品です。
(I書店 店長)
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