フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクト「フェリスの一冊の本」
32-3・特集.1就職関連の本-2
2006年5月31日発行読書運動通信32号掲載記事9件中3件目
特集:1・就職/2・書店のオススメの本
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『働くということ』 黒井千次 著 講談社現代新書
遊びは楽しいものだけれど、働くことは辛いことだと考えている人は多いと思います。
しかし、この本の著者は、働くことと遊ぶことは相反することではなく、
補完関係にあるのだと言っています。現代人は遊びに大変貪欲ですが、
それは豊かになったことだけが原因でしょうか。
労働と遊びがコインの裏表のようなものであるとするならば、
遊びに対する欲求は仕事に対する欲求の裏返しだといえるでしょう。
納得のいく仕事をして、それを成し遂げた説きに味わう充足感は、
なりたい自分になるために働くのだ、という労働の本質に直結する喜びです。
が、生涯のほとんどの時間を費やしてまでしたいことが見つかっている人は、
そう多くはないはずです。
現在日本の社会の中で仕事をするということは、
「疎外(人間が本来あるべき自己の本質を喪失した非人間的状態)」された状態に
大変近いけれども、何のために働いているのかという、
索漠たる思い抱えながら生きるより、働くことを自己実現の手段として
前向きに捉えようと、この著者は主張しています。
1932年、東京生まれの著者は15年間会社員としてはたらいた後、
退職して作家になった経歴の持ち主です。この本には経験から導き出された洞察と、
明快な分析が記されており、働くことの意味について新たな気付きを与えてくれます。
就職するのはなんとなく億劫だとか、就職すれば大学時代みたいな楽しい時間は
なくなってしまうかもしれないと心配している人に、
ぜひ手にとっていただきたい1冊です。
(図書館 鈴木明子)
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